第77話 何にもない幸せ

 草原でくつろいでいる猫達に向かって、手当たり次第しだいに「走査そうさ」してみた。


 捻挫ねんざや、骨にヒビが入っているくらいのケガをしている猫はいたけど、どの猫も処置しょちの必要はなかった。


 たぶん、狩りで走った時に、足をひねったか、どこかにぶつけてしまったのだと思う。


 猫は捻挫ねんざ骨折こっせつに強い動物で、安静あんせいにしていれば、すぐ治る。


 調べたかぎり、感染症かんせんしょうにかかっている猫もいないようだ。


 この草原にいる猫達はみんな、お昼寝したり、毛づくろいをしたり、猫じゃらしにじゃれたりと、平和そのもの。


 ケガや病気で、苦しんでいる猫がいない。


 それはぼくにとって、喜ぶべきことだ。


 もしかしたら、この縄張なわばりには、ぼくよりも優秀なお医者さんがいるのかもしれない。


「ミャ?」


 ここに、お医者さんはいますか?


「お医者さんなんて、いないニャァ」


 どの猫に聞いても、この縄張なわばりには、お医者さんはいないと言う。


 ここにも、お医者さんはいなかった。


 お医者さんと会えたら、聞きたいことがいっぱいあったのに。


 今まで、イチモツの集落の茶トラ先生以外、お医者さんと会ったことがない。


 この世界では、お医者さんが少ないのかな?


 どこへ行けば、お医者さんに会えるんだろう?


 とりあえず、今ここで、ぼくに出来ることは何もない。


 のんびりと旅の疲れをいやしながら、周辺の情報収集じょうほうしゅうしゅうでもしよう。


 旅をしている間は、肉食動物がおそってこないかと、いつも周囲に気を配らなきゃいけない。


 ずっと緊張しっぱなしだから、寝ている時もちょっとした音で、すぐ目がめちゃうんだよね。


 どうしても眠りが浅くなって、睡眠不足すいみんぶそくになる。


 猫も人間も、睡眠不足すいみんぶそくは体に悪い。


 特に、猫の睡眠不足すいみんぶそくは命にかかわる。


 だから、たまにこうして猫がたくさんいる場所に、立ち寄る必要がある。


 猫がたくさんいれば、安心してぐっすりと眠ることが出来る。

 

 何も考えずに、ゆっくりとお昼寝するのは、いつ振りかな。


 ぽかぽかのお日様ひさまの下で、日向ぼっこしながらお昼寝するって、なんて気持ちが良いんだろう。


 ぼくは、お父さんとお母さんのふわふわの猫毛に包まれて、幸せな気持ちで眠りにいた。   

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