第75話 「何もない」がある

 てしなくどこまでも広がる、緑の大草原だいそうげん


 ぼく達家族は、川に沿って、大草原をけていく。


 山へ向かっているはずなのに、全然近付いている気がしない。


 草原には比較対象ひかくたいしょうとなるものがないから、近くに見えているだけで、実はめちゃくちゃ遠いのかもしれない。


 かといって、他に行くてもない。


 ひたすら、山に向かって走り続けるしかない。


 幸い、大草原には、草食動物のれしかいない。   


 ざっと見渡してみたけど、危険生物はいないようだ。


 森の中には、色んな動物がいて、危険生物もいっぱいいたのに。


 生息区域せいそくくいきが違うだけで、こんなに変わるのか。


 長老のミケさんが言っていた通り、大草原以外、本当に何もない。


 お父さんとお母さん以外の猫と出会わないし、ケガをすることも、病気になることもない。 


走査そうさ」を、使う必要もない。


 でも、「何もない」がある。


 何もないからこそ、感じられる幸せがある。


 のどかわいたら、川の水を飲み、おなかがいたら、草食動物を狩る。


 眠くなったら、お父さんとお母さんと寄りって眠る、おだやかな日々。


 これが、猫本来の生き方なのかもしれない。


 ぼく達は、ゆったりのんびりと家族旅を続けた。



 それから、何日経過けいかしただろうか。


 山の近くの草原で、数匹の猫達が猫会議ねこかいぎをしているのが見えた。


 猫会議ねこかいぎしているってことは、この近くに集落があるはず。


 さっそく、猫会議ねこかいぎ中の猫に近付いて、話し掛けてみる。


「ミャ!」


 初めまして、こんにちは!


「おや、見かけない仔猫ニャァ。初めましてニャァ」


 猫会議に参加していた猫は、優しい笑顔で挨拶あいさつを返してくれた。


「ミャ?」


 ぼくは、お父さんとお母さんと一緒に、旅をしています。


 この近くに、猫の集落はありますか?


「集落? そんなものは、ないニャァ」


 ない? ないって、どういうこと?


 森の中では、森のひらけた場所に、数匹の猫達が集落を作っていた。


 もしかしたら、草原で暮らしている猫達は、集落を作らないのかもしれない。


 ふと見れば、猫会議の側に、生後2週間くらいのちっちゃい仔猫が3匹いた。


 よちよち歩きで、幼い声でミャアミャア鳴いて、じゃれ合っている。


 うわぁ、可愛い! 赤ちゃん猫だっ!


 猫は成猫おとなになっても可愛いけど、仔猫は何百倍も可愛い。


 仔猫って、見ているだけでいやされるし、自然と笑顔になるよね。


 ぼくは、ちっちゃな仔猫達を、ずっとながめていた。

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