第74話 大いなる旅立ち

 森を出ると、見渡みわたす限りの大草原だいそうげんが広がっていた。


 遠くには、巨大な山が見える。


 本当にそれ以外、何もない。


 イチモツの集落のミケさんが、言っていた通りの光景が、ぼくの目の前に広がっている。


 この辺りに、ケガや病気で苦しんでいる猫はいなさそうだ。


 だったら、次に目指すのは、遠くに見える巨大な山かな。


 あの山の近くまで行けば、何かありそうな気がする。


「ミャ」


「あの山へ行くニャー?」


「シロちゃんが行きたいなら、行くニャ」


 お父さんとお母さんは、ニッコリ笑って大きくうなづいてくれた。


 そうと決まれば、腹ごしらえだな。


 おなかがいていたら、どこへも行けないもんね。


 草原では、ウマのような草食動物のれが、ムシャムシャと草を食べている。  


「ミャ!」


 ぼくが「アイツを狩りたい!」と言うと、お父さんが優しい笑顔から狩りの顔になる。


「あれは、パラヒップスニャー。みんな、音を立てずについて来てニャー」


 ぼく達は、ソロリソロリと忍び歩きで、パラヒップスのれに近付く。


 ある程度、近付いたところで、一斉いっせいに飛び出す。


 パラヒップスのれは、突然おそいかかってきたぼく達に驚いて、あわてて逃げ出した。


 ぼく達は、大急ぎで逃げていくパラヒップス達を、追いかける。

  

 しばらく、追いかけっこが続いた後、れの一番後ろを走っていたパラヒップスに、疲れが見え始めた。


 それを見逃さず、お父さんがパラヒップスの足に飛びつくと、ソイツは大きく転んだ。


 ウマは走っている時に転ぶと、高確率こうかくりつで足を骨折する。


 ウマは体重が約500kgもあるので、1本でも足を骨折してしまうと、自分の体を支えられなくなる。


 立てなくなったウマは、すぐに重い病気にかかって、死んでしまうそうだ。


 骨折した競走馬きょうそうば安楽死あんらくしさせるのは、少しでもウマを苦しませない為だと、聞いたことがある。


 ぼくとお母さんも、お父さんに続いて飛び掛かり、パラヒップスを仕留しとめた。


 パラヒップスのれは、振り向くことなく、そのまま逃げて行った。


 3匹で食べるなら、1とう充分じゅうぶんだ。


「さぁ、食べるニャー」


「いただきますニャ」


「ミャ」


 パラヒップスは、新鮮しんせん馬刺ばさしみたいな味で、とても美味しかったです。




 ――――――――――――――――


Parahippusパラヒップスとは?】


 今から約3600万年くらい前に生息せいそくしていたといわれている、ウマの祖先そせん


 もっとも古いウマの祖先そせんであるHyracotheriumヒラコテリウムが、草原で生きる為に進化したもの。


 現在のウマとほぼ同じような姿で、小さいポニーサイズだったらしい。

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