第72話 森の外へ

 集落を出たぼく達は、またお父さんとお母さんの3人旅へ戻った。


 ここしばらくの間、11匹の猫達と民族大移動みんぞくだいいどうをしていたので、少しさびしい気がする。


 一方、集落のおさはなれられた、解放感かいほうかんうれしい。


 おさは、集落の猫達を助けたあたりから、ぼくに頼り切りになっちゃってさ。


 森へ行く時以外は、ずっとぼくの後ろをついてくるんだよ。


 可愛い猫が、後ろからついて来てくれるのは、嬉しいけどね。


 何かを期待する尊敬そんけい眼差まなざしで、じ~っと見つめてくるのが、ちょっと怖かった。 


 いくら可愛い猫でも、ずっと見つめられていると居心地いごこちが悪い。


 きっとぼくが、集落の問題を全部解決かいけつしてあげちゃったから、何か勘違かんちがいしちゃったんだろうね。


 でも、期待されても困る。


 ぼくだって、出来ないことがたくさんある。


 知らないことだって、たくさんある。


 これからは、集落の猫達と協力して、自分達の力で困難こんなんを乗り越えて欲しいと思う。


 

 

 そんなことを考えながら歩いていると、お父さんが前方ぜんぽうを指差す。


「そろそろ、森を出るニャー」


「ミャ?」


 ついに、森から出られるのか?


 早く森の外が見たくて、外に向かってけ出す。


 木々の間をけ抜けて、森を出た。


 森の外は、見渡みわたす限りの広い草原だった。


 緑色の草が風に吹かれて、同じ方向にれていた。


 さえぎるものが何もない、広い大空。


 人間だった頃は、高い建物が建っているのが当たり前だった。


 猫に生まれ変わった後も、森の中は木々がえていて、緑の葉が空をおおかくしていた。


 こんなにも広い青空は、初めて見た。


 スゴい……空って、こんなにさお綺麗きれいだったんだ。

   

 ずっと見つめていると、青空に吸い込まれそう。


 綿菓子わたがしのように、ふんわりとした真っ白な雲が、青空に浮かんでいる。


 美しい世界に感動しているぼくをよそに、お父さんとお母さんは、草原にえている猫じゃらしにじゃれていた。


 楽しそうにニャーニャー鳴きながら、猫じゃらしにじゃれている猫は可愛い。


 猫じゃらしの何が、猫を夢中むちゅうにさせるのかな?


 なんとなく気になって、猫じゃらしを『走査そうさ』してみる。


対象たいしょう:イネ科エノコログサ属エノコログサ』


薬効やっこう:胃腸虚弱きょじゃく(胃や腸が、とても弱っている状態)』


 へぇ、猫じゃらしって、エノコログサって名前だったんだ。


 猫じゃらしにしか使えないと思っていたけど、胃腸薬としても使えるらしい。


 目の前でゆらゆら揺れる、猫のしっぽのような猫じゃらしを見ていると、なんだか心がソワソワする。


「ミャー!」


 ガマン出来なくなって、ぼくも猫じゃらしに飛び付いた。


 ふわふわと柔らかくて、しなやかにふにふにと動く猫じゃらしに、ワクワクする。


 猫じゃらしにじゃれるの、めっちゃ楽しいっ!




 ――――――――――――――――


狗尾草エノコログサとは?】


 夏~秋頃に緑色のが出てくる、世界中どこにでもえる雑草。


 が、犬のしっぽに似ているから「いぬっころ草」→「エノコログサ」になったと、言われている。


 猫が夢中むちゅうになってじゃれるので、別名「猫じゃらし」


 花言葉は、「遊び」「愛嬌あいきょう(とっても可愛い)」


 その辺にえている雑草は、ばっちぃから、絶対に食べちゃダメだよっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る