第71話 困った集落の長

 1週間程度、集落の周辺調査しゅうへんちょうさおこなった結果、安全が確認された。


 ケガや解毒に効果がある、キランソウもたくさん生えていた。  


 集落の猫達を集めて、キランソウの見分け方と薬の作り方を教えた。


 ぼくに出来ることは全部やったところで、集落のおさに話しかける。


「ミャ」


 集落の周りを調べて、無事、安全が確認出来ました。


 ここなら、みんな安心して暮らしていけるでしょう。


「本当に何から何まで、ありがとナォ。感謝してもしきれないナォ」


 ぼくの報告ほうこくを聞いて、集落のおさは満足げにニコニコ笑った。


「ミャ」


 ぼくに出来るのは、ここまでです。


 あとは、集落の皆さんにおまかせして、ぼく達家族は旅立ちます。


「そんな! 君がいなくなったら、この集落の猫達は生きていけないナォ! 出て行くなんて、絶対許さないナォッ!」


 集落のおさは、ぼくが旅立つと聞いて、あわてふためいた。


 ぼくに抱き付いて、どうにか引き止めようとしてくる。


「ミャ~ッ!」


 そんなこと言われたって、困ります! はなして下さいっ!


「みんなのケガを治して、毒虫に囲まれた集落から出る決断けつだんをして、ここまで導いたのはきみナォ! ここで見捨みすてるなんて、無責任むせきにんナォッ!」


 集落のおさとぼくのやりとりを見て、集落の猫達が集まってくる。


おさ、仔猫のお医者さんは、今まで我々の為に頑張がんばってくれたニャニャ」


「たくさんお世話せわになったのに、これ以上、迷惑めいわくけちゃダメニャオ」


「仔猫のお医者さんが、可哀想かわいそうニャ~ン。早くはなすニャ~ン」


 困っているぼくを見て、集落の猫達がおさ説得せっとくしてくれた。


 それでも、すがるおさから、お母さんがぼくを取り上げて抱き締める。


「シロちゃんは、うちの大事な子ですニャッ!」


「シロちゃんをイジメるヤツは、誰であろうと許さないニャーッ!」


 お父さんとお母さんが、おさに怒り狂っている。


 ぼくの為に本気で怒っているふたりを見て、「愛されているなぁ」と、嬉しくなる。


 集落のおさは残念そうに、深いため息を吐く。


「みんながそこまで言うなら、仕方ないナォ……」


 おさあきらめきれない様子だったけど、集落の猫達は笑顔で見送ってくれた。 


「仔猫のお医者さん、新しい集落まで連れて来てくれて、ありがとニャニャ」


「これからは、みんなで力を合わせて生きていくニャオ」


「仔猫のお医者さん達も、どうかお元気でニャ~ン」


 ぼく達は猫達に見送られて、名もない集落を旅立った。


 おさ名残なごしそうに、いつまでもぼくを見つめていたのが怖かった。

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