第62話 代わりの薬草

 水浴びが終わったら、川から上がり、河原かわらで毛を乾かす。


 全身の毛が、べったりと肌に張り付いて、気持ちが悪い。


 少しでも早く乾くように、全身についた水をペロペロめて、毛づくろいする。


「シロちゃん、大丈夫かニャー?」


「シロちゃん、毛づくろいしてあげるニャ」


 お父さんとお母さんが心配そうな顔で、毛づくろいを手伝ってくれた。


 ふたりが毛づくろいしてくれたおかげで、早く乾きそうだ。


 それから、しばらく河原かわらで日向ぼっこして、毛を乾かした。


 毛が乾く頃には、ドクダミの臭いがほとんどしなくなった。


 乾かすのに時間がかかったけど、水浴びして良かったな。


 ドクダミのにおいに、ここまで悩まされるとは……。


 ドクダミの代わりとなる、別の薬草を探さないと。

 

 毛が乾いたところで、河原かわらから離れ、集落の猫達に話し掛ける。


「ミャ?」


 さっきの患者さんは、どうなりましたか?


「キジトラさんなら、巣穴に運んで寝かせて来たニャオ」


 そうでしたか、それは良かった。


「このにおいは、どうにかならないニャ~ン? くさくてたまらないニャ~ン」


 すみません、ドクダミはとても良い薬なんですが、においがキツいですよね。


 しばらくすれば、そのうち、におわなくなりますよ。


 ぼくもくさいのはイヤなんで、別の薬を探そうと思います。


「早くなんとかして欲しいニャオ」 


「君は本当に、お医者さんなのニャン? だったら、助けて欲しいニャン」


 この集落に、ケガや病気で苦しんでいる猫がいるんですか?


「狩りでケガをした猫達が、いっぱいいるニャン」


 それは大変だ! ケガに効く薬草を探さなくてはっ!


 ぼくはさっそく、その辺に生えている草へ向かって、手当たり次第しだい走査そうさする。


対象たいしょう:シソ科キランソウ属キランソウ」


薬効やっこう高血圧こうけつあつ咳止せきどめ、解熱げねつ健胃けんい止血しけつ鎮痛ちんつう火傷やけど、切り傷、毒虫の刺傷さしきずれ物、汗疹あせも打撲だぼく


 よし、ケガに効きそうな薬草を見つけたぞ。


 キランソウを集めながら、その猫へ向かって言う。


「ミャ!」


 ぼくが治しますので、ケガをした猫達を集めて下さい!


「分かったニャン、ケガをしたみんなに声をかけてくるニャン」


 集落中に声掛こえかけをしてもらうと、狩りでケガをしたという猫達が、ぼくの周りに集まってきた。



 ―――――――――――――――――


金瘡小草キランソウとは?】


 3~5月頃に、5~10mmのむらさき色の花を咲かせる雑草。


金瘡きんそう」は「刀傷かたなきず」のことで、キランソウの葉をつぶして傷口に塗ると、早く治る。


 さまざまな薬効やっこうがある薬草なので、「病気を治して、地獄じごくかまふたをする」という意味から、「ジゴクノカマノフタ」という別名がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る