第61話 患者さんの集落

 ぼく達は、川上かわかみに向かって、患者さんを運んだ。


 しばらく、川辺かわべを歩いていると、集落らしきものが見えてくる。


 ドクダミのにおいを、プンプンさせているぼく達を見て、集落の猫達が「うわっくさっ!」と、顔をしかめた。


 猫の嗅覚きゅうかくは、人間の数万倍だと言われている。


 嗅覚きゅうかくするどいから、強いにおいをきらう。


 ぼくだって、自分がドクダミくさいのは、ヤダよ。


 でも、解毒にドクダミが必要だったんだから、しょうがないだろ。


 集落の猫達は、くさ余所者よそもののぼく達を、不審ふしんがっている。


 しかし、患者さんを見ると、慌てて駆け寄ってくる。


「あっ、キジトラさんニャニャ!」


「キジトラさん、何があったニャ~ンッ?」


「キジトラさん、めっちゃ臭いニャオッ!」


 集落の猫達は、患者さんを囲んで、取り乱している。


 ぼくは、みんなを落ち着かせる為に、少し大きめの声で話し始める。


「ミャッ!」


 皆さん、聞いて下さい、ぼくはお医者さんです!


 キジトラさんは、毒虫に刺されて、森の中で倒れていましたっ!


 このにおいは、毒虫の毒を解毒げどくする薬のにおいですっ!


 ぼくの説明を聞いて、集落の猫達は驚きの表情になる。


「仔猫の君が、お医者さんニャニャ?」


「毒虫に刺されたニャオッ? キジトラさんは、大丈夫かニャオ?」 


「このにおいは、お薬の臭いニャ~ン?」


 みんなの問いかけに、ぼくは大きくうなづく。


「ミャ」


 安心して下さい、ぼくに出来ることは全部やりました。


 解毒げどくには、しばらく時間がかかると思います。


 ですがきっと、キジトラさんは元気になりますよ。


 これを聞いて、集落の猫達は納得した顔で、ぼくに感謝してくる。


「キジトラさんを助けてくれて、ありがとニャニャ」


「仔猫なのに、お医者さんだなんて、スゴイニャオ! ありがとニャオッ!」


「助けてくれたのは嬉しいけど、やっぱり、くさいニャ~ン……」


 それを皮切かわきりに、みんなも口々くちぐちに、「くさくさい」と言い出す。


 ドクダミは、薬効やっこう優秀ゆうしゅうなんだけど、強烈きょうれつにおいだけが最大の欠点けってんだよね。


 仕方がない……においが強くない、別の薬草を探さないとな。


「キジトラさんを集落の中に運びますから、仔猫のお医者さん達も、入って来て下さいニャオ」


 集落の猫達は、キジトラさんを助けたお礼として、ぼく達を集落へむかえ入れてくれた。

 

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