第60話 ドクダミの薬

 患者さんは、毒虫の毒と細菌感染さいきんかんせんで、熱が出ていた。


 傷口洗浄せんじょうの時に暴れたせいで、さらに熱が上がってしまったようだ。


 高熱で、患者さんは苦しそうに浅い息をしながら、ぐったりとしている。


 早く、ドクダミの薬を作ってあげないと。 


 でも、ドクダミは初めて使う薬草だから、用法ようほう用量ようりょうが分からないんだよな。


 う~む……「走査そうさ」って、便利なようで不便。


 病気の説明が現代医学で、医学を学んでいないぼくには難しすぎる。


 薬の名前を出されても、知らないし、手に入らない。


 薬草も、薬効やっこうしか分からず、使い方の説明もない。


 ぼくの能力なんだから、ぼくに分かりやすく説明してくれればいいのに。


走査そうさ」に文句もんくを言っても、状況は何も変わらない。


 とにかく、目の前にいる患者さんを助けなきゃ。


 でも、ドクダミって、どうやって使えば良いんだ?


 ヨモギと同じように、すりつぶせばいいのかな?


 傷口にるなら、すりつぶすしかない。


 飲ませるにしても、すりつぶすしかない。


 そうと決まれば、河原かわらに落ちていた石を使って、ドクダミをつぶし始める。


 うわ……めちゃくちゃくさいな、ドクダミ。


 ぼくの体にも、においが付いちゃって、ヤダなぁ……。


 でもこのにおい、どっかでいだことがあるような気がする。


 あ、分かった! おばあちゃんに飲まされた、正露丸せいろがんにおいだっ!


 そんなことを思い出しながら、すりつぶしたドクダミの汁を、患者さんに飲ませる。


 あんまりたくさん飲ませると、おなかを壊すかもしれないから、ひとくちだけ。


「ミャ」


「うぇ……くさいにゃ、苦いにゃ……」


 薬を飲んだ患者さんは、大きく顔をゆがませて、口直くちなおしに、川の水をいっぱい飲んでいた。


 薬のにおいと味は、我慢がまんしてもらうしかない。


 汁をしぼった後のドクダミのペーストは、傷口に塗り付けた。


 これで、良し。


 とりあえず、出来ることはやったと思う。


 だけど、患者さんをこのまま、放っておく訳にはいかない。


 患者さんの集落が近くにあるなら、そこまで送り届けてあげたい。


「ミャ?」


「……集落なら、この川に沿ってのぼっていけばあるにゃ……」 


「君の集落は、この近くニャー? だったら、集落まで運んであげるニャー」


 優しいお父さんとお母さんが、患者さんを集落まで運んでくれることになった。




 ――――――――――――――――


蕺草どくだみとは?】

 

 暗くて湿しめった場所をこのみ、5~8月頃に白い花を咲かせる雑草。


 日本三大民間薬みんかんやくとして、有名。


 正露丸せいろがんと似たにおいがするけど、正露丸には入っていない。


 中国では、「魚腥草ぎょせいそう(魚がくさったみたいなくさくさ)」という名前の漢方薬かんぽうやく


 食べられるけど、とにかくくさいので、日本人はあまり食べない。


 ベトナムでは、パクチーと同じ香草こうそうとして、生で食べるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る