第59話 新しい薬草

 ないないないないない!


 どうしよう! この辺りにはヨモギがえていないっ!


 こうなったら、ヨモギのわりになる、別の薬草を探さなければ。


 どこかに、虫刺むしさされに効く薬草はないかな?


 草が生えているところに向かって、手当てあたり次第しだいに、「走査そうさ」してみると――


対象たいしょう:ドクダミ科ドクダミ属ドクダミ』


薬効やっこう:胃腸病、食あたり、便秘べんぴ利尿りにょうれもの、吹き出もの、皮膚病ひふびょう、高血圧、動脈硬化どうみゃくこうか抗炎こうえん作用、駆虫くちゅう寄生虫きせいちゅうを出す)、水虫、、虫刺され、解熱げねつ解毒げどく鎮痛ちんつう殺菌さっきん、消毒』


 こ、これだーっ!


 運良く、ヨモギ並みの万能薬ばんのうやくを見つけた。


 しかも、ヨモギにはない、解熱や解毒作用まである。


 薬効やっこうを比べてみると、ヨモギは体を温めるタイプで、ドクダミは体を冷やすタイプの薬草みたいだ。


 今、一番必要な薬草じゃないかっ!


 こんな便利な薬草が、あったなんて。


 茶トラ先生にも、教えてあげたい。


 ぼくはさっそく、ドクダミを採取さいしゅしていく。


 そこで、お父さんとお母さんが戻って来た。


「シロちゃん、この先に川があったニャー」


「その猫さんを、川まで運ぶニャ」


「ミャ」


 ぼくは、ドクダミの葉で両手がふさがっているので、お父さんとお母さんにお願いして、患者さんを運んでもらった。


 お父さんとお母さんの後をついて行くと、大きな川が流れていた。


 見た感じ、川幅かわはばが10m以上ありそう。


 傷口を洗わなきゃいけないので、患者さんの毛をかき分けて、虫に刺された場所を探す。


 人間だったら、刺された部分が赤くれるから、すぐ分かるのに。


 猫は、全身が毛におおわれているから、分かりずらい。


 患者さんに直接、刺された場所を聞いてみる。


「ミャ?」


「こ、この辺りにゃ……」


 患者さんは、ぐったりとしたまま、小さなかすれた声で答えた。


 どうやら、右前足を刺されたらしい。


 頭やおなかじゃなくて、良かった。   


 猫は、本能的に水を怖がる動物。


 その理由は、猫の毛は水に弱く、乾きにくいから。


 毛が乾かないと、体が冷える。


 体が冷えると、免疫力めんえきりょくが下がり、病気にかかりやすくなる。


 野生の猫が体を冷やすことは、死へ直結ちょっけつするんだ。 


 患者さんに、「傷口を水で洗います」と、ひとことことわってから、川へ連れて行く。


「ミャ」


「イヤニャア~! 水はイヤニャァアアアアァ~ッ!」


 患者さんはビビり散らかしていたけど、「刺されたところだけだから」と、何度も言い聞かせて、どうにか傷口を洗わせてもらった。

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