第58話 新しい患者

 しばらく、森の中を歩いていると、ウマの顔をしたイヌみたいな動物が、木の葉をモシャモシャ食べているのを見つけた。


 確か、ヒラコテリウムとかいう草食動物。


 草食動物なら、狩れる。


 イチモツの集落しゅうらくにいた頃、お父さんとお母さんと一緒に、何度か狩ったことがある。


 お父さんは声をひそめて、ぼくとお母さんに言う。


「ちょうどいいところに、ヒラコテリウムがいるニャー。よし、みんなで狩るニャー」


「分かったニャ」


「ミャ」


 お父さんの合図で、ぼく達は一斉いっせいに、ヒラコテリウムへ飛び掛かった。


 ヒラコテリウムは、みついたぼく達をはらおうと、めちゃくちゃに暴れながら森の中を走り回る。


 ぼくは、振り落とされまいと、必死につめと歯を立てる。


 最後にはお父さんが、急所きゅうしょであるあごの下をみちぎって、仕留しとめた。


 やっぱり、お父さんは狩りが上手い。


 正確せいかくに、獲物えものの急所をねらって、みつく。


 ぼくもいつか、お父さんのように、狩りが上手くなりたいな。


「さぁ、みんな、食べるニャー」


「頂きますニャ」


「ミャ」


 ヒラコテリウムの赤身あかみ部分は、新鮮しんせんで魚臭くないマグロの赤身みたいな味がした。


 脂身あぶらみ部分は、マグロの大トロみたいで、美味しかった。


「うみゃいうみゃい」と言いながら、ぼく達がヒラコテリウムを食べていると。


 ゆっくりと、何かが近付いてくる音がした。


 ヒラコテリウムの血の匂いにさそわれて、別の動物が来たのかも。  


 ぼく達は食べるのをやめて、警戒けいかいする。


 もし、危険生物だったら、いつでも逃げられるように、待ちかまえる。


 少しして現れたのは、1匹の猫だった。


 具合が悪いのか、フラフラしている。


「……た、助けて……にゃ」


 弱々しい声で、助けを求めてきたかと思うと、パタリと倒れた。


「ミャ!」


 ぼくはあわててって、「走査そうさ」する。


対象たいしょう:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』


症状しょうじょう毒虫どくむしによる虫刺症ちゅうししょう、および、細菌感染さいきんかんせん


処置しょち:傷口洗浄せんじょう後、ステロイド外用剤がいようやく塗布とふ抗生物質こうせいぶっしつ投与とうよ


 どうやら、毒虫にされてしまったらしい。


 まずは、綺麗きれいな水で、傷口を洗い流さなければ!


 お父さんとお母さんに、この近くに川か泉がないか、探すようにお願いした。


 ふたりが水を探している間に、ぼくはヨモギを探し始めた。



 ――――――――――――――――

Hyracotheriumヒラコテリウムとは?】


 今から5600万年前くらいに生息していたといわれている、ウマの祖先。


 全然ウマらしくない見た目で、どちらかというと、ウマっぽい顔をしたイヌ。


 体の高さは35cm前後、体重は不明。

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