第55話 お医者さんだって病気になる

 ほとんどの猫達の病気が治り、薬の作り方も教えた。


 これで、心残こころのこりなく、旅立つことが出来る……と、思いきや。


 今度は、ぼく達家族がたおれてしまった。


 ここ一週間、ぼくはひとりで、集落の猫達全員の治療ちりょうをしていたから、疲れてしまったんだ。


 毎日、15匹×1日3回分の薬を作るのは、とても大変だった。


 薬を作っては、1匹ずつ飲ませ、なくなったら作るのくり返し。  


 思い返せば、1日中、薬を作り続けていたような気がする。


 ずっと薬を触っていたせいで、真っ白だったぼくの毛は、あちこち緑色にまっていた。


 寝る間もしんで、看病かんびょうし続けていたから、睡眠すいみんも、ろくにれていなかった。


 お父さんとお母さんは、集落のみんなを食べさせなきゃいけないから、1日に何度も狩りへ行ってくれた。


 いくらお父さんが、狩り好きとはいえ、体力には限界がある。


 ぼく達は、「みんなを助けたい」という気持ちが強すぎるあまり、頑張がんばりすぎてしまったんだ。


 疲れ果てたぼく達を見て、集落の猫達は申し訳もうしわけなさそうに、話し合っている。


「我々を助けたら、お医者さん達が、倒れてしまったにゃあ……」


「仔猫のお医者さんは、ひとりで頑張がんばって、みんなの病気を治してくれたからニャン」


「こんなに小さな仔猫なのに、とっても優しい子ニィ」


「今度は私達が、お医者さん達を助ける番にゃー」


 集落の猫達は、「助けてくれたお礼」と言って、ぼく達のお世話をしてくれることになった。


 穴掘りが得意な猫は、ぼく達の巣穴を作ってくれた。


 狩りが得意な猫達は、狩りへ行って、お土産を持って帰ってきてくれた。


「少しでも早く、元気になるように」と、作り方を覚えたばかりの薬を作って、飲ませてくれた。


 みんなのおかげで、久し振りに、お父さんとお母さんと一緒に、ゆっくりのんびりと、眠ることが出来た。


 みんなの優しさに触れて、ふいに、イチモツの集落を思い出した。


 長老のミケさん、茶トラ先生、サビさん……仲が良かった猫達の笑顔が、次々と思い浮かぶ。


 集落を守るかのように、大きく葉を広げたイチモツの木が、とてもなつかしい。


 なんだか、イチモツの集落が、恋しくてたまらない。


「ずっと待っているから、いつでも戻っておいで」という言葉を思い出し、切なくなって、お母さんの胸の中で泣いた。

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