第54話 お医者さんがいなくても

 ぼくがいなくなったら、この集落の猫達は、またケガや病気におびえる日々に戻る。


 お医者さんがいないのは、可哀想かわいそうだと思う。 


 だからといって、ぼくがずっと、ここにいることは出来ない。


 この集落に、お医者さんになってくれる猫が、いれば良いんだけど。


 お医者さんがいなくても、せめて、薬だけでもあれば……。


 そうか! この集落のみんなに、薬の作り方を教えればいいんだっ!


 薬を作れるようになれば、もうケガや病気を恐れることはない。


 集落のおさに、「薬の作り方を教えるので、集落の猫達を集めて欲しい」と頼む。


「ミャ」


「本当にゃあっ? それは、助かるにゃあっ!」


 おさは大喜びで、声を張り上げる。


「みんな~! 集まるにゃあ~っ! 仔猫のお医者さんが、薬の作り方を教えてくれるにゃあ~っ!」


 これを聞いた猫達が、一斉いっせいに集まって来た。


 みんな、薬のおかげで病気が治ったから、薬を信じ切っている。

  

 期待きたいちた目で、ぼくを見つめている。


 みんな、やる気満々まんまんなので、さっそく、作り方を教えることにした。


 作るだけなら、誰でも出来る。


 難しいのは、「ヨモギの見分みわけ方」だ。


 まずは、一番重要じゅうような「ヨモギの見分け方」を教えなければ。


 ポイントは、3つ。


 その① 葉の形と、葉の裏。


 その② 葉の香り。


 その③ 葉の付け根。


 ヨモギは、形が毒草どくそうがあるから、間違えると大変なことになる。


 葉を裏返うらがえすと、白い毛が生えているから、分かりやすい。


 次に、においをぐ。


 ヨモギは、軽くむとにおいがするから、げば、すぐ分かる。


 最後に、葉の付けに注目。


 ヨモギの葉の付け根には、ちっちゃいちょうネクタイみたいな葉がついている。


 これは、ヨモギにしか付いてないから、大事なポイント。


 正しくヨモギを見分けることが出来れば、ペースト状になるまで、石でつぶすだけ。


 あと、大事なのは、使い方。


 病気には、1日3回飲む。


 ケガには、ってかわかす。


 たくさん飲めば、早く治るってもんじゃないから、量はちゃんと守ること。


 薬の作り方と使い方を教えたら、みんなからめちゃくちゃ感謝された。



 ―――――――――――――――――


【ヨモギに似た草とは?】


・ニガヨモギ


 葉と枝は乾燥かんそうさせると、衣類の防虫剤ぼうちゅうざいや、胃薬として効果がある。


 食品添加物しょくひんてんかぶつとして、お酒の香り付けに良く使われている。



・ブタクサ


 秋の花粉症かふんしょう原因げんいんとして、有名な雑草ざっそう


 食べられないし、薬にもならない。


 繁殖力はんしょくりょくだけはムダに強い、みんなの嫌われもの。



・トリカブト


 日本三大有毒植物のひとつとして有名な、猛毒もうどくを持つ毒草どくそう


 現在はまだ、解毒方法げどくほうほうはない。


 漢方薬かんぽうやくとしては、強心作用きょうしんさよう(心臓を強くする)、鎮痛作用ちんつうさよう血液循環けつえきじゅんかん改善かいぜん(血液の流れを良くする)、新型コロナウイルス感染症の治療薬としても効果がある。

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