第53話 お医者さんがいない集落


 それから、しばらく。


 ぼく達家族は、小さな集落しゅうらくで、病気の猫達のお世話せわをすることになった。


 ぼくは病気の猫達に、1日3回、薬を作って飲ませる。


 お父さんとお母さんは、動けない猫達の代わりに狩りへ行ってくれている。


 お世話せわをしているぼく達も、感染予防かんせんよぼうに薬を飲んでいる。


 ヨモギの免疫力強化めんえきりょくきょうかと、抗菌化物質こうきんかぶっしつの作用で感染せず、元気に過ごせている。


 お父さんなんか、元気になりすぎて、狩りが楽しくて仕方ないらしい。


 懸命けんめい看病かんびょうし続けたおかげで、みんな少しずつ回復。


 一週間もすれば、ほとんどの猫が元気を取り戻した。


 集落のおさ(代表)だというクロブチネコが、めっちゃ良い笑顔で、ぼくに喜びと感謝を伝えてくる。


「仔猫のお医者さん、君は我々にとって、救世主きゅうせいしゅにゃあ」


 救世主だなんて、そんな大げさな。


「大げさじゃないにゃあ。君達が来てくれなかったら、集落の猫達はみんな助からなかったにゃあ」


 みんな助かって、良かったですね。


「君達には、本当に感謝しかないにゃあ。出来れば、ずっとこの集落にいて欲しいにゃあ」


 ぼく達は、ケガや病気で苦しんでいる猫を救う為に、旅をしているのです。


 すみませんが、ずっとここにいることは出来ません。


 丁寧ていねいにおことわりすると、分かりやすくガッカリする。


「君達が、ずっとここにいてくれれば、とっても助かるのににゃあ……」 


 そうは言われましても……。


 残念ですけど、ぼく達が、ここにとどまり続ける理由はないので。


 みんなの病気が治ったら、ぼく達は旅立ちます。


 ところで、この集落に、お医者さんはいないんですか?


「お医者さんがいたら、こんなことにはなっていないにゃあ」


 そりゃそうだ。


 イチモツの集落には、茶トラ先生がいたけど。


 この集落には、お医者さんがいないのか。


 ケガをしても、病気になっても、ただ寝て治すことしか出来ない。


 そう思うと、イチモツの集落って、めぐまれていたんだな。


 イチモツの集落の広さは、この集落の倍以上あるし、猫の数もずっと多かった。


 しかも、この集落には仔猫が1匹もいない。


 たぶん、体が未熟みじゅくな仔猫は、感染症かんせんしょうで死んでしまったのだろう。


 過去にも、治療ちりょうを受けられずに、苦しんで死んでいった猫が、たくさんいたに違いない。


 お医者さんがいれば、いくらでも救えた命があったはずなのに……。

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