第52話 猫の手も借りたい

 倒れている猫は、10匹以上もいるから、ぼくひとりでは手が足りない。


 リアル「猫の手もりたい」状態。


 そこで、お父さんとお母さんには、薬作りをお願いすることにした。


 薬の作り方は、とても簡単。


 平べったい石の上に、ヨモギの葉っぱを乗せる。


 あとは、握りやすい大きさの石で、叩いてつぶすだけ。


 ぼくがやって見せると、ふたりは見よう見まねで、薬を作り始める。


「そういえば、茶トラ先生もこうやって、お薬を作っていたニャー」


「茶トラ先生、今頃、どうしているかニャ?」


 薬作りはふたりに任せ、ぼくは倒れた猫を1匹ずつ、『走査そうさ(スキャン)』する。


 集落しゅうらくの猫達が、みんな同じ「ネコカリシウイルス感染症かんせんしょう」とは限らない。


 病気は治りかけているのに、病気で体力を消耗しょうもうしすぎて動けない猫もいた。


 病気の猫には、ヨモギをすり潰した薬を飲ませる。


 猫にヨモギをたくさん食べさせると、アレルギー症状を起こしたり、おなかをこわしたりするので、薬の量はひとくちくらいで良い。


 病気と一緒に、ケガを悪化あっかさせてしまった猫もいた。


 ケガの場合は、傷口きずぐち綺麗きれいな水で洗った後、薬をる。


 これらの治療法ちりょうほうは、茶トラ先生から教わった。


 クロブチ模様もようの猫に、薬を飲ませると、弱々しい声でうったえてくる。


「集落の猫は、誰も狩りに行けなくなったにゃあ……おなかがいて、死にそうにゃあ……」


 狩りが出来なければ、野生の猫は何も食べられない。


 どの猫も、「おなかがいた」と、か細くニャーニャーと鳴いている。


 おなかが空いていたら、治るものも治らない。

 

 猫達の治療がひと通り終わったところで、お父さんとお母さんに話し掛ける。


 この集落の猫達はみんな、おなかを空かせているみたいなんだ。


 次から次へと頼んじゃって、申し訳ないんだけど、狩りに行って来て欲しい。


 ぼくの頼みを聞いて、お父さんが急にハリキリ始める。


「分かったニャー! みんなの為に、美味しいお肉をたくさん狩ってくるニャーッ!」


 お父さんは、狩りが好きだからなぁ。


 早く狩りがしたくて、ウズウズしているようだ。


「おなかが空いていたら、元気になれないニャ。シロちゃんは、みんなのお世話をお願いニャ」


 お母さんは優しく笑って、ぼくの頭をでてくれた。


「ミャ」


「行ってらっしゃい」と言って見送ると、お父さんとお母さんは元気に、集落を飛び出して行った。

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