第50話 集団感染

 ぼくは、お父さんとお母さんに、ヨモギを見せて、「これと同じ草を、集めて欲しい」と頼んだ。


「この草を、集めれば良いニャ?」


「分かったニャー、たくさん集めるニャー」


 感染症にかかっている猫が1匹いれば、同じ集落しゅうらくで暮らしている猫達も、感染している可能性が高い。  


 もし、集落内しゅうらくない集団感染しゅうだんかんせんしていたら、たくさんのヨモギが必要となる。


 ヨモギは、なんにでも使えるから、たくさんあっても困ることはない。


 お父さんとお母さんが協力してくれたおかげで、両手に抱えるほどのヨモギが集まった。


「これだけあれば、いいかニャー?」


「これが、お薬になるニャ?」


「ミャ」


 ヨモギを集めてくれたふたりに、「ありがとう」と、お礼を言った。


 ぼくの予想がハズレていることを祈りつつ、『走査そうさ』を頼りに、病気の猫を探す。


 しばらく歩いていると、獣道けものみち(野生生物が通る道)を見つけた。


 獣道けものみちをたどって歩いて行くと、森がひらけた(広場に出た)。


 そこは、小さな集落らしく、ざっと数えて10匹以上の猫がいた。


 しかし、どの猫も、ぐったりと地面に横たわっている。


 寝ているのではなく、明らかに病気で苦しんでいるのが、見ただけで分かった。


 やはり、集落内しゅうらくないで、集団感染しゅうだんかんせんが発生したようだ。


 ぼくの悪い予想が、当たってしまった。 


 まずは、近くで倒れている、灰色猫に話し掛ける。


「ミャ」


「仔猫……? ダメニャン! 近付いちゃダメニャン! 近付いたら、君も病気になっちゃうニャンッ!」


 灰色猫は、閉じていた目を開くと、驚いた顔をして言った。


 ぼくは、灰色猫を落ち着かせる為に、優しい声で言い聞かせる。


 安心して下さい、ぼくはお医者さんです。


 この集落にいる、猫達の病気を治す為に来ました。


「仔猫の君が、お医者さんなのニャン? 信じられないニャン……」  


 まぁ、信じる信じないは、自由ですけどね。


 すぐに、お薬を作りますから、ちょっと待ってて下さい。


 お薬を飲んで、ぐっすり眠れば、数日で治りますからね。


 優しく言い聞かせると、灰色猫は涙を流して、ぼくにすがる。


「仔猫のお医者さん……来てくれて、ありがとうニャン。集落のみんなも、病気でいっぱい苦しんでいるニャン。出来れば、みんなも助けて欲しいニャン……」


 もちろん、みんな助けます!


 ぼくはさっそく、平たい石と、手のひらサイズの石を拾って、ヨモギをすりつぶし始めた。

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