第46話 旅の目的

「シロちゃん、どこへ行くニャー?」


「シロちゃんが行きたいところなら、どこでも行くニャ」


「みんな一緒なら、どこへ行っても、きっと楽しい旅になるニャー」


 ぼくは今、お父さんとお母さんとおててつないで、森の中を歩いている。


 お父さんもお母さんも、旅へ出るのは初めてらしく、すっかり観光気分かんこうきぶんだ。


「どこへ行くのか?」と、聞かれても困る。


 集落しゅうらくを出たまでは良いけれど、どこへ行くかは決めてない。


 自由気ままな、ぶらり旅といったところか。


 長老のミケさんから聞き出した情報は、かなりふわっとしている。


 ミケさんも、旅へ出たのは若い頃で、くわしいことはおぼえていないそうだ。


 猫が地図を書くわけないから、地図もない。


 森の中にあるという、他の集落の場所も分からない。


 ぼく達の足で、何日歩けば森を出られるかも分からない。


 猫の目は、磁場じばを見ることが出来るらしい。

    

 磁場じばが見えるということは、方向感覚ほうこうかんかくがあるってことだ。


 また、猫の脳内には「方向細胞ほうこうさいぼう」があるそうだ。


 視覚しかく聴覚ちょうかく嗅覚きゅうかく、太陽の方角やかたむきなどで、道に迷わないと言われている。


 でも、方向音痴ほうこうおんちの猫もいる。


 外へ出た経験がない室内飼しつないがいの猫が逃走とうそうして、そのまま帰って来なくなったなんて話もある。


 迷子じゃなくて、何か理由があって、戻りたくなかっただけかもしれないけど。


 それはさておき、ぼく達が旅立ったのは昼頃だった。


 太陽が、真上まうえにあるから、間違いない。


 名残惜なごりおしくてり返ると、集落からずいぶんはなれたはずなのに、まだイチモツの木が見えている。


 イチモツの木を中心に集落を作ったのは、森の中でも目印になるからだろう。


 毎日見上げていた、イチモツの木があんなに遠い。


 そう思うと、本当に集落を出たんだと実感じっかんする。

 

 振り返るのは、これが最後だ。


 これからは、まっすぐ前だけ見て歩いて行こう。


 次に、イチモツの木を見るのは、集落へ帰る時だ。


 まずは、森の中にあるという、他の集落をたずねてみようか。


 集落を探そうと、視覚と聴覚と嗅覚に意識を集中――


 しようとしたら、おなかが鳴った。


 そういえば、まだごはんを食べていない。


 ぼくのおなかの音を聞いて、お父さんとお母さんがくすくす笑う。


「シロちゃん、はらぺこさんかニャ?」


「じゃあ、さっそく狩りをして、美味しいお肉を食べるニャー」


「ミャ!」


 狩りも久し振りだし、旅を思う存分ぞんぶん楽しもう。

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