第44話 集落からの旅立ち

 猫は、人間のように旅立ちの準備は必要ない。


 食べ物は狩り、飲み水は川、着替えも必要ないし、普段ふだんから野宿のじゅくみたいなもんだし。


 身ひとつで、思い立ったら、すぐ旅立てる。


 とはいえ、集落しゅうらくの猫達には、今までたくさんお世話になったから、挨拶あいさつくらいはしないと。


 まず、ぼく達は家族そろって、長老のミケさんのところへ挨拶あいさつに行った。


「ミケさん、うちのシロちゃんが旅へ出たいと言うので、家族で集落を出ることになりましたニャー」


「今まで、大変お世話になりましたニャ」

  

「ミャ」


 ぼく達がお辞儀じぎをすると、ミケさんは悲しげに笑う。


「ご家族で、旅へ出られるにゃ? それは、本当にさびしくなるにゃ」


「集落を離れるのは、我々われわれさびしいですニャー。でも、親として、可愛いシロちゃんの願いは、かなえてあげたいんですニャー」


「シロちゃんが私達の知らないところで、危険なことをしないかと、心配で目が離せませんニャ」


「シロちゃんは、ちっちゃいからにゃ。ご両親と一緒なら、シロちゃんも安心にゃ」


 ミケさんは、ぼくの頭をで撫でしながら言った。


 う~む、どうあがいても、子供あつかいされる。


 ちゃんと、成猫おとな儀式ぎしきに合格して、立派な成猫おとなとして認められたはずなのにな。


 見た目が仔猫だから、しょうがないんだろうけどさ。


 たぶん、病気が治らない限り、一生、仔猫として見られる。


 ぼくもあきらめて、子供扱いにれよう。


 ミケさんに挨拶あいさつを済ませると、続いて茶トラ先生のところへ。


「先生、今まで本当にお世話になりましたニャー」


「先生には、感謝してもしきれないほど、たくさんのごおんがありますニャ」


「ミャ!」


「シロちゃんが助手をしてくれたおかげで、助かりましたニャ~。こちらが、お礼を言わなきゃならないくらいですニャ~。シロちゃん、今までありがとニャ~」


 茶トラ先生は優しく笑って、ぼくの頭を撫でてくれた。


 ぼくは小さい頃から体が弱く、茶トラ先生には、本当にお世話になった。


 助手になってからは、お医者さんの技術を教えてもらい、ぼくの恩師おんしとなった。


 思えば、親の顔より見た猫かもしれない。


 こんな感じで、次々と集落中の猫達に挨拶あいさつして回った。

  

 みんな、ぼく達家族との別れをしんでくれた。


 旅立つ時には、集落中の猫達全員がお見送りに来てくれた。


 あったかい優しさが嬉しくて、集落のみんなとの別れが悲しくて。

 

 嬉しさと寂しさで、胸がいっぱいになって、泣いてしまった。


 泣くぼくを見て、集落の猫達は「ずっと待っているから、いつでも戻っておいで」と、優しくはげましてくれた。


 みんなの優しさが嬉しくて、もっと涙が止まらなくなった。


 さようなら、イチモツの集落。


 いつの日か、戻って来るかもしれない。 


 その時まで、どうかみんな元気でね。





 ―――――――――――――――――


【大きくなれない病気とは?】


 小猫症ドワーフィズムは、成長ホルモンの異常により、成猫おとなの年齢になっても仔猫サイズのまま、成長しない病気。


 犬の場合は「小犬病ドワーフィズム


 人間の場合は、「小人病ドワーフィズム


 ※読み方は、全部同じドワーフィズム


 早期治療そうきちりょうで、大きくなれる可能性はある。


 ちなみに、世界的に見ても、珍しい病気らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る