第43話 免許皆伝

 お医者さんになるには、「走査そうさ(スキャンする力)」だけでは、意味がない。


 ぼく自身がお医者さんとしての技術を、身に着ける必要があった。


 最初のうちは、分からないことが多かったけど、茶トラ先生が優しく教えてくれた。


 失敗して落ち込んでも、「シロちゃんが頑張っているのは、ちゃんと分かっているから」と、茶トラ先生も患者さんもはげましてくれた。


 茶トラ先生から指導しどうを受けて、薬草ヨモギの使い方や処置しょちの仕方を覚え、患者さんへの対応も出来るようになっていった。


 手際良てぎわよく処置出来るようになったぼくの頭を、茶トラ先生はニコニコ笑って、でる。


「シロちゃんは、すっかり立派なお医者さんになったニャ~。教えることは、もう何もないニャ~」 


 茶トラ先生からめられて、とても嬉しかった。


 茶トラ先生に認められることが、お医者さんとしての最初の目標だったから。


 自信がついたぼくは、長老のミケさんに相談することにした。


「茶トラ先生に認められたので、そろそろ旅へ出たい。行く先々さきざきで、ケガや病気で苦しんでいる猫を救いたい」と。


「シロちゃんが旅に出たら、寂しくなるにゃ。でも、シロちゃんの夢を止める気はないにゃ」


 ミケさんは少し寂しそうな笑顔で、ぼくの頭を撫でながら続ける。


「シロちゃんはちっちゃいから、集落を出たら、きっとたくさん苦労するにゃ」


 ぼくは成猫おとなになっても仔猫サイズだから、みんなからいつまでも子供扱いされている。


 外の世界へ出ても、「仔猫だから」という理由で、バカされることもあるだろう。  


 危険な野生動物に、襲われることもあるに違いない。


 それでも、ずっと集落の中だけで生きていくのは、もったいない。


 せっかく、異世界転生したんだから、広い世界を見てみたい。


「いきなり、ひとり旅は危ないにゃ。サバトラさんもシロブチさんも、とっても心配するにゃ。誰かと一緒に行った方が、良いんじゃないかにゃ?」


 確かに、旅にれないうちは、ひとり旅は危険すぎる。


 安全な集落と違って、森の中には野生動物がうじゃうじゃいるんだ。

 

 ぼくと一緒に旅に出てくれる仲間を、探さないと。


 お父さんとお母さんは心配性だから、「旅に出たい」と言っても、反対されるだろう。


 まずは、お父さんとお母さんを説得せっとくするところから始めよう。 




 ――――――――――――――――――


免許皆伝めんきょかいでんとは?】


 先生が生徒に、「技術を全部伝えたから、もう教えることは何もない」と言うこと。

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