第39話 お医者さんの助手

 目の前に立っていたクロネコのクロさんに、「左足をケガしていないか?」と質問する。


 クロさんは、恥ずかしそうに苦笑にがわらいをして、ひとつうなづく。


「何日か前に、おれも成猫おとな儀式ぎしきを受けたニャァ。でも、着地に失敗して、左足をやっちゃったニャァ」


 やっぱり。


 さっき、頭に浮かんだのは、クロさんの症状だったのか。


 ぼくがさずかった特別な力は、手を向けた対象の病気やケガを調べる力。


 それこそ、猫のお医者さんになりたいぼくに、ピッタリの能力じゃないか。


 長老のミケさんに、このことを報告ほうこくしたら、とても喜んでくれた。


「シロちゃんは優しい子だから、きっと神様が、お医者さんになれる力を授けてくれたんだにゃ」


 猫の神様だったら、人間から猫へ転生する時に会った。


「次は、簡単に死なないように気を付けて生きるのだぞ、少年」と、言っていた。


 そうか! 猫の神様が、ぼくの夢を叶えてくれたんだっ!


 ありがとう、猫の神様。


 ぼく、神様が与えてくれた力を使って、猫のお医者さんになるよ。


 ミケさんは、集落の猫達に向かって、声をる。


「みんな、シロちゃんは、お医者さんの力を授かったにゃ!」


 集落中の猫達が、ワァッと歓声かんせいを上げて、笑顔で「おめでとう」と、祝ってくれた。


 これを聞いたお医者さんの茶トラ先生が、前に進み出て、ぼくの頭を撫でる。


「シロちゃんは、お医者さんになるのニャ~? だったら今日から、わたしの助手にならないかニャ~?」


 まさか、この場でお医者さんの助手にならないかと、誘われるとは思わなかった。


 だけど、こういう大事なことは、お父さんとお母さんに相談してから決めないと。


 お父さんとお母さんを見ると、ニコニコと笑顔を浮かべている。


「シロちゃん、お医者さんの助手になるのニャー? 良かったニャー」


「茶トラ先生、シロちゃんを、どうかよろしくお願いしますニャ」 


 ふたりはそろって、お医者さんに頭を下げた。


 茶トラ先生も、頭を下げる。


「こちらこそ、ありがとうございますニャ~」


 いきなり、今日からぼくがお医者さんって言っても、みんなも受け入れられないだろう。


 まだ、お医者さんとしての経験も、信頼しんらいもない。


 茶トラ先生の助手として、お医者さんとしての経験を積もう。


 そんなこんなで、今日からぼくは、茶トラ先生の助手になった。

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