第38話 特別な力

 イチモツの実は、果物くだものというより野菜に近い。

 

 かたくて、むのが大変だ。


 例えるなら、ダイコンやニンジンって感じかな。


 それでも、久し振りに果物を食べられて、嬉しかった。


 猫に生まれ変わったら、植物がほとんど食べられなくなっちゃったからな。


 食べると、ゴロゴロピーちゃんおなかをこわすになる。 


 猫が安心して食べられる植物は、猫草ねこくさくらい。 


 人間にも、人それぞれ好き嫌いがあるように、猫草をこのんで食べる猫もいれば、全然食べない猫もいる。


 ぼくも良く食べるんだけど、みんなから「仔猫は、ぽんぽんおなかぺいんぺいんいたいいたいになるよ」と、注意される。


 仔猫サイズだけど、これでも一応成猫おとななんだけどなぁ。


 そんなことを考えているうちに、イチモツの実を食べ終わった。


「どうにゃ? 何か変わったかにゃ?」


 長老のミケさんを始め、集落中の猫達が、ぼくに注目している。


 どんな特別な力をさずかったのか、みんな気になるようだ。


 ぼくだって、どんな力をられたのか、楽しみで仕方がない。


 見た感じでは、何も変わっていないように見えるけど、何か力が宿やどった感覚かんかくはある。


 ためしに、走ってみたり、地面をなぐってみたりしたけど、以前と変わりなかった。


 肉体強化ではなかったようだ。


 ってことは?


 もしかしたら、魔法が使えるかもしれない。


 両手を前に出して、「〇〇波」的なものが出ないか、気合きあいを入れて、意識を集中してみる。


「ミャーッ!」


 が、何も出なかった。


 代わりに、頭の中に言葉が浮かんだ。


走査そうさ開始』


 は? なんて?


 突然のことに戸惑とまどっていると、『走査完了そうさかんりょう。結果表示』に切り替わった。


『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』


症状しょうじょう:左大腿骨ふともものほね不全骨折にヒビがはいっている


処置しょち:必要なし。安静あんせいにしていれば、2週間で自然完治勝手に治る


 ぼくが両手を向けた先には、キョトンとしているクロネコのクロさんがいた。




 ――――――――――


猫草ねこくさとは?】


 ペット用品店では、オーツ麦の若葉わかば、小麦の若葉、大麦の若葉を、「Cat Grass」として売っている。


 何故、肉食動物の猫が、麦の若葉を食べるのかは、分かっていない。


 一般的に、「毛づくろいの時に、飲み込んでしまった毛を出す為」とか、「体調をととのえる為」とか言われている。


 単純に、「味と食感が好きで、食べている」という説もある。




走査そうさとは?】


 簡単に言えば、scanスキャンすること。


「詳しく調べる」「検査けんさする」「分析ぶんせきする」といった意味がある。



Libyanリビア wildcatヤマネコとは?】


 猫の祖先。


 肉食動物なので、小動物、虫、鳥、草食動物などを狩って食べる。


 木登りが上手で、水は大の苦手。


 ネズミを狩る目的で家畜化かちくかされたのが、現在の猫。


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