第36話 成猫の儀式への挑戦

 結論から言うと、ぼくは成猫おとなの年齢になっても、仔猫サイズのままだった。


 お父さんとお母さんは、「大きくなれなくても、シロちゃんが元気で生きてくれているだけで良い」と言ってくれた。 


 集落の猫達からは、「シロちゃんは、ちっちゃくて可愛いね」と、いつまでも子供あつかいされている。


 大きくなれなかったことは残念だけど、仕方がない。


 ぼくにとって重要なことは、「小さくても、成猫おとな儀式ぎしきを受けられるかどうか」だ。


 儀式に合格して、立派な成猫おとなと認められれば、ひとりで狩りへ行くことが許される。


 今は、親同伴おやどうはんじゃないと、狩りに行けないからね。


 そして、成猫おとなと認められれば、集落から出て行くことも許される。


 ぼくの夢は、異世界を旅するお医者さんになること。


 この儀式を合格出来なければ、夢はかなわない。


 まずは、長老であるミケさんに、儀式について詳しく聞くことにした。


「前にも話したけど、イチモツの木に登り、実を取って、無事に降りてこられれば、合格にゃ」


 失敗しても、また儀式は受けられるのか?


「儀式は、何度でも受けられるにゃ。シロちゃんは、儀式を受けたいのかにゃ?」


「ミャ!」


「分かったにゃ。頑張ってにゃ」


 ミケさんは優しい笑顔で、ぼくの頭を撫でてくれた。


 こうして、ぼくは儀式を受けることになった。


 ぼくが儀式を受けると聞いて、集落の猫達は全員、イチモツの木の周りに集まってきた。


 優しい猫達が、落ちてもケガをしないようにと、木の根元ねもと枯草かれくさの山を用意してくれた。


 お父さんとお母さんも、ハラハラしながら、ぼくをはげましてくれる。


「シロちゃん、お父さんとお母さんが見守っているから、頑張るニャー」


「シロちゃんなら、きっと出来るニャ。シロちゃんが頑張れるように、いっぱい応援するニャ」 


「ミャ~!」


 ありがとう、ぼく、頑張るよ!


 集まった猫達もみんな、「シロちゃん、頑張れ!」と、声援せいえんを送っている。


 可愛い猫達に応援されて、頑張らない訳にはいかない。


 よし、やる気は充分じゅうぶん


 この儀式を合格する為に、狩りや木登りの練習をして、体を鍛えてきたんだ!


 絶対に、合格してみせるっ! 


 もし、今回合格出来なくても、合格するまで何度でもいどんでやる。


 ぼくは大きく両手を振って、みんなの声援に応えた後、爪を出して木にしがみついた。

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