第34話 手をつなぐ幸せ

 お父さんとお母さんに挟まれて、ふたりと手をつないで、森の中を歩く。


 手をつないで歩いているだけで、なんだかとても幸せな気持ちになる。


 そういえば、人間だった頃、お父さんとお母さんと3人で手をつないで歩いたことってあったっけ?


 お父さんは、ほとんど家にいなかったし、一緒に出掛けたこともなかった。


 お母さんは、手すらつないでくれなかった。


 手をつないでくれたり、抱っこしてくれたりしたのは、おばあちゃんだけだった。


 ぼく、お父さんとお母さんと、手をつないで歩いたことがなかったんだ。


 こんな簡単に出来ることなのに。


 なんで、してくれなかったんだろう?


 ぼくが立ち止まると、ふたりも足を止める。


「シロちゃん、どうしたニャ? 疲れたかニャ?」


「疲れたなら、抱っこしてあげるニャー。ほら、シロちゃん、おいでニャー」


 ふたりは心配そうに、ぼくの顔をのぞき込んでくる。


 お父さんは、ぼくに向かって両手を広げて、ぼくが来るのを待っている。


「ミャ」


 ふたりの優しさが嬉しくて、ぼくは遠慮えんりょなく、お父さんの胸に飛び込んだ。


 夢のせいで、人間だった頃の自分が、愛されていなかったと気付いてしまった。


 でも今は、こんなにも愛されている。


 しかも、幸せいっぱい猫いっぱい。


 生まれ変わって、良かった。


 お父さんの肩に、顔をグリグリ押し付けると、ふたりはくすくすと笑う。


「シロちゃんは、甘えんぼさんだニャー」


「とっても可愛いニャ」


 笑いながら、ふたりは再び、獲物えものを探して歩き出した。


 それからすぐ、お母さんが何かを見つけて、声を上げた。


「アデロバシレウスニャ!」


 アデロバシレウス? また知らない名前が出てきたぞ。


 どうか、気持ち悪い虫じゃありませんように。 


 お父さんに抱っこされたまま、そ~っと見ると。


 そこにいたのは、10~15㎝くらいのネズミ。


 みんなでお食事中だったらしく、10匹くらいが集まっていた。


 集団のネズミ……ちょっと怖い。


「シロちゃんの為に、いっぱい狩るニャ!」

 

 お母さんは、鋭い爪を出した猫パンチを、連続で素早く繰り出す。


 ぼくのパンチとは、スピードとパワーが違う。


 あっという間に、ネズミの山が出来上がった。


 お母さんはニッコリ笑って、狩ったばかりのネズミを差し出してくる。


「シロちゃん、いっぱい食べてニャ」


「……ミャ」


 ネズミだから抵抗があったけど、食べてみたら美味しかったです。






 ――――――――――――――――― 

Adelobasileusアデロバシレウスとは?】


 今から2億2500万年前に生息していたといわれている、ネズミの祖先。


 現在見つかっている中で、一番古い哺乳類ほにゅうるいらしい。


 体長は10~15㎝、体重は不明。

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