第30話 旅するお医者さん

 目を覚ましたお父さんとお母さんに、「ぼくに、兄弟はいるのか?」と、聞いてみた。


「シロちゃんの兄弟は、みんな死んじゃったニャ……」


 お母さんは、悲しそうな顔で打ち明けてくれた。


 やっぱり、ぼくが最後のひとりだったのか。


 死因は、病気? それとも事故?


「みんな、体が弱くて、病気になって死んじゃったニャ」


「生まれてすぐ、死んじゃった子もいたニャー」


 体が弱いと気付いた時、お医者さんには連れて行ったのか?


「もちろん、すぐお医者さんに連れて行って、てもらったニャ。でも、お薬を飲んでも、治らなかったニャ」


 この集落にいるお医者さんの医療技術は、民間療法みんかんりょうほうレベル。


 ヨモギは万能薬だけど、軽いケガや病気しか治せない。


 ほとんどのケガや病気は、寝て治すしかない。


 生まれつき体が弱かったり、生まれつき重い病気を持っていたら、お手上げだ。


 手術でしか治らない病気だったら、何も出来ずに、ただ死ぬのを待つだけ。


 亡くなった兄弟達は、とても苦しかっただろう。


 お父さんもお母さんも、我が子達を失ってどれだけ辛かっただろう。


 兄弟がいない理由が分かって、とても悲しくて、とても悔しい気持ちになった。


 ここに、腕の良い獣医さんがいたら、助けられたかもしれないのに。 


 この世界の医療技術は、どうなっているのだろうか。


 もしかしたらこの世界には、高い医療技術を持つお医者さんか、医療魔法が使える魔法使いがいるかもしれない。


 そういえば、この世界では魔法を使えるのかな。


 集落の猫達が、魔法らしきものを使っているところは、見たことがないけど。


 もし、魔法を使える世界だとしたら、使えるようになりたい。

  

 長老のミケさんの話によると、森の中には、ここ以外にもいくつも集落があるらしい。


 成猫おとなになって、ひとりで集落を出られるようになったら、他の集落へ行ってみたい。


 他の集落には、高い技術を持つお医者さんや、魔法使いがいるかもしれない。


 見つけたら、ぜひ、弟子入りして、医療を教えてもらいたい。


 将来は、世界中を旅しながら、ケガや病気で苦しんでいる猫を助ける、旅するお医者さんになりたいな。

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