第28話 ぼくのお母さん

「先生、ありがとうございましたニャ」


「お大事にニャ~。具合が悪くなったら、また来てニャ~」


 親猫達はお礼を言って、お医者さんのところを後にした。


 ぼくは、ぽんぽんおなかぺいんぺいんいたいいたいで歩けないので、毛皮に包まれてシロブチに抱っこされている。


「じゃあ、シロちゃんが元気になるように、美味しいお肉を狩ってくるニャー」


「はい、いってらっしゃいニャ」


 シロブチはぼくの看病の為、巣穴に戻り、サバトラは狩りへ出掛けた。


 ぼくが「水が飲みたい」と言うと、シロブチは途中で小川に寄ってくれた。


 ゴロゴロピーちゃんおなかをこわしたの時は、たっぷり水分補給することが大事。


 本当は、温かい飲み物や常温のスポーツドリンクが良いんだけど。


 猫しかいない集落で、温かい飲み物なんてあるはずがない。


 おなかかが冷えちゃうけど、小川の水を飲むしかない。


 我慢して冷たい水を飲んだら、さらに体が冷えた気がする。


 寒くて震えるぼくを、シロブチが抱き締めてくれる。


 シロブチの体が、じんわりあったかくて気持ちが良い。


「シロちゃん、今日はあったかくして、ゆっくり寝ましょうニャ」


「ミャ……」


 シロブチは巣穴で丸くなり、ぼくの体をすっぽり包んであっためてくれる。


「シロちゃん、寒くないかニャ? 具合が悪くなったら、すぐ言うニャ。早く元気になってニャ」


 心配で仕方がないという優しい声に、心まであったかくなる。


 こんなに大切にされて、こんなにも愛されている。


 これが、親か。 


 見ためが猫だから、シロブチとサバトラがぼくの親だとは、どうしても思えなかった。


 でも今なら、ふたりが親だと思える。


 ようやくぼくの中で、シロブチが「ぼくのお母さん」なんだと、飲み込めた。


 ゴロゴロと喉を鳴らして、シロブチにスリスリして甘える。


 今なら、言えそうな気がする。


「……お母さん」


「シロちゃんが、初めてお母さんって呼んでくれたニャ……ッ!」


 シロブチが感激した様子で、喉をゴロゴロ鳴らした。


 猫のゴロゴロ音は、癒される。


 可愛くて優しい猫が、ぼくの親だなんて、なんて幸せなんだろう。


 これからはシロブチじゃなくて、お母さんと呼ぼう。


「お母さん、お母さん」


「シロちゃん、シロちゃん」


 ふたりでゴロゴロ喉を鳴らしながら、お互いを呼び続けた。 


 お母さんにいだかれて、ぼくは幸せな気持ちで眠りに就いた。

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