第27話 おくすり飲めたね

 シロブチが、ぼくを毛皮で包んで抱き上げ、帰ろうとする。


 お医者さんは、慌ててシロブチを呼び止める。


「あ、ちょっと待って下さいニャ~。シロちゃんに、お薬を飲ませますニャ~」


「そうなんですニャ? では、お願いしますニャ」


「今、お薬を作りますニャ~」


 お医者さんは、近くに生えているヨモギの葉っぱを、十枚ほどちぎった。


 おわんのような形をした石のうつわにヨモギを入れると、肉球サイズの丸い石でトントン叩いて、つぶしていく。

 

 グチャグチャにつぶし終わると、お医者さんはぼくに器を近付けてくる。


「お薬が出来たニャ~。さぁ、シロちゃん、あ~んするニャ~」


 え? それ、飲まなきゃいけないの?


「病気になったら、つぶしたヨモギを飲む」とは、聞いていたけど。


 つぶしただけのヨモギを、そのまま飲むのはイヤだ。


 実は小さい頃に一度だけ、ヨモギをそのまま食べたことがあるんだよね。


 葉っぱの裏側にある細かい毛が、口の中でケバケバして、葉っぱ特有の青臭いエグみが強くて、とても食べられなかった、


 おばあちゃんが、「ヨモギは、ゆでて灰汁あく抜きしないと、食べられないよ」と、言っていた。


 あの時の味を思い出して、思わず顔をしかめた。


 口を開けないぼくを見て、お医者さんが困った顔をする。


「シロちゃん、お薬を飲まないと、病気が治らないニャ~」


「シロちゃん、お薬飲んでニャ」


「シロちゃん、あ~んしてニャー」


 三匹の成猫おとなに押さえられたら、仔猫の力ではかなわない。


 無理矢理、口を開けさせられて、つぶしたヨモギの汁を飲まされた。


「はい、おわりニャ~。ちゃんとお薬飲めて、えらかったニャ~」


 お医者さんは、ニコニコ笑いながら、ぼくの頭を撫でてくれた。


 てっきり、つぶしたヨモギを口に押し込まれると思っていたんだけど。


「汁だけ?」と聞くと、お医者さんは答えてくれる。


「仔猫がヨモギを食べると、おなか壊しちゃうニャ~」 


 仔猫はおなかが弱いから、ヨモギを消化出来ないのかもしれない。


 汁だけだったので、そんなにツラくなかった。


 でも、口直しに水が飲みたい。

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