第19話 お父さんとお母さん

 シロブチとサバトラに挟まれて、三人で仲良くおててつないで、森へ入る。


 肉球のプニプニした触感が嬉しくて、思わず顔がニヤニヤしてしまう。


 肉球って、なんでこんなに気持ちが良いんだろう。


 まんまるで可愛いし、ずっとプニプニしていられるし、めっちゃ癒される。


 プニプニしていると、シロブチが笑って、ぼくの肉球をプニプニしてくる。


「シロちゃんの肉球は、ちっちゃくて可愛いニャ」


 そんなたわいのない会話をしながら、森の中を歩いて行く。


 森の中はいつも、あちこちから野生動物の鳴き声が聞こえている。


 ギャアギャアという鳴き声は、鳥だろうか。


 風に吹かれて、草木もざわめいている。


 どこから、野生生物が飛び出して来るか分からなくて、森に入ってからずっと緊張しっぱなしだ。


 近くの草むらが動く度に、ビクッと体が大きく跳ねてしまう。


 ビクビクするぼくを、サバトラが優しく笑いながら、なだめてくる。


「そんなに怖がらなくても、大丈夫ニャー。何があっても、お父さんとお母さんが、シロちゃんを守るニャー」


 お父さんとお母さん。


 言われてみれば、そうなんだよな。


 ぼくはまだ、ふたりを「お父さん」「お母さん」と、呼んだことがない。


 猫に生まれ変わったけど、精神は人間のままなんだよね。


 ある日突然、「今日からこの猫達が、あなたの両親ですっ!」と言われても、「はい、そうですか」とはならないだろ。


 だから、ふたりが「自分の両親」と思えないんだ。


 でも今は、ぼくの両親。


 今もこうして、ふたりから愛され、守られている。


 ちょっと目を離すと、すぐどっか行っちゃう好奇心旺盛こうきしんおうせいな仔猫だから、なおさら心配だろう。


 今は実感ないけど、そのうちじょういて、「自分の両親」と思える時が来るのだろうか。

 

 ギュッと、ふたりの手を握り締めると、両親は嬉しそうに笑って握り返してくれた。


 家族の微笑ましいやりとりに、胸がほっこりとあったかくなる。


 しかし、家族で仲良くおさんぽ気分は、そこまでだった。


 数十m前方にある草むらが、ガサガサと大きな音を立てて揺れる。


 あきらかに、何かが出てきそうな気配を感じた。

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