第16話 成猫の儀式

 ちょうど良かったので、ミケさんにイチモツの木とはなんなのか、聞いてみた。


「イチモツの木は、見ての通りとっても大きな木にゃ。上の方に、っているのが見えるかにゃ?」


 言われてみれば、巨木の緑の葉がしげあいだに、丸くて白いものが、いくつか見えている。


「この木に登って、あのを取ってこれれば、立派りっぱ成猫おとなとして認められるにゃ」


 なるほど、成猫おとなになる為の儀式ぎしきなのか。


 認められたら、どうなるんだろう。


「立派な成猫おとなと認められたら、狩りに行くことが許されるにゃ」


 え? じゃあ、木登りが苦手で、登れなかった猫は?


「登れなかったら、狩りに行くことは許されないにゃ」


 木登りくらい出来ないと、狩りは出来ないってことか。


 猫にとって木登りは、狩りの必須技能ひっすぎのう


 高い場所から獲物えものを探し、身をひそめて、タイミングをはかる。


 獲物が油断したところを、上からおそかって仕留しとめる。


 自分が追われる立場になったら、木の上へ登って敵から逃げる。


 でも、ぼくまだ仔猫なのに、シロブチから狩りを教えてもらったけど。


「狩りの練習は、誰だってしなきゃダメにゃ」


 それもそうか。


 仔猫のうちから狩りを覚えて、成猫おとなになって初めて、ひとりで狩りへ行くことが許される。


 ってことは、つまり?


 ぼくがこの木を登ろうとした理由は、成猫おとなと認められて、狩りに行きたかった……ってコト?


 早く狩りに行きたくて、いどんだものの、あっけなく落ちたと。


 生後数ヶ月の仔猫が、こんな大きな木に登れるはずがない。


 仮に登れたとしても、降りられない。


 木登りは、登ったら終わりじゃない。


 安全に自力じりきりるまでが、木登りです。


 そりゃ、ミケさんにられて当然だよね。


「それでシロちゃん、ケガはなかったかにゃ?」


「ミャ」


「それは良かったにゃ。でももう、成猫おとなになるまで、登っちゃダメにゃ。分かったかにゃ?」


「ミャ」


「よしよし、良い子にゃ。分かればよろしいにゃ」


 ミケさんはニコニコ笑って、ぼくの頭をでてくれた。

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