第14話 お医者さんとお話し

「シロちゃん、お待たせニャ~」


 お医者さんは、サビさんの傷に薬をり終わると、ぼくに近付いてきた。


 サビさんは、昨日と同じように、薬がかわくまでお昼寝するようだ。


 お医者さんは、ニコニコと笑いながら、ぼくに問い掛けてくる。


「それで、お話しって、何ニャ~?」


 せっかくだから、この世界のことを、なんでも良いから知りたい。


 手始てはじめに、「サビさんに塗った薬は何か?」を聞いてみた。


「あれは、ヨモギの葉っぱを、すりつぶして作った傷薬ニャ~」


 意外と、身近な草だった。


 匂いをいでみると、ヨモギの良い匂いがした。


 ヨモギといったら、ヨモギ餅や草だんごが美味しくて、大好きだったな。


 生の葉っぱをすり潰して、出た汁を傷に塗ると早く治る。


「食べて美味しい、とても優秀ゆうしゅうな薬草」だと、おばあちゃんが言っていた。


 続いて、「お医者さんは、狩りをするのか?」


「みんなのケガを治さなきゃいけないから、狩りには行けないニャ~」


 確かに、お医者さんが狩りに行ってしまったら、誰がケガを治療ちりょうするのか。


 狩りに行けるものが狩りに出て、狩りに行けないものは集落しゅうらくを守る。


 それぞれ、役割分担やくわりぶんたんがあるんだろう。


 全員が狩りに行ったら、集落に誰もいなくなっちゃうし。


 たくさんっても、食べきれない。


 生食は、鮮度せんどいのち


 食べられる分だけ、狩るのが基本。


 恐らく、肉を保存する技術も、肉を熟成じゅくせいさせる技術もないだろう。


「ここはどこなのか? 森の外には何があるのか?」と聞くと、お医者さんは困った顔をする。


「ここは、森の中にある集落ニャ~。生まれた頃からずっとここにいるから、森の外は知らないニャ~」


 生きるだけなら、森を出る必要はない。


 集落を拠点きょてんに、近場ちかばで狩りをして、食って寝るだけの生活。


 たぶん、集落にいるほとんどの猫は、森から出たことがないだろう。


 う~む……困った、早くもんでしまった。




―――――――――――――――――――――――――――――――

ヨモギとは?】


 春になると、緑の葉がもっさりえてくる、食べられる雑草ざっそう


 薬草としては、切り傷、すり傷、汗疹あせも湿疹しっしん歯痛はいた咳止せきどめ、下痢げり腰痛ようつう、肩こり、しょう貧血ひんけつ、生理痛、高血圧などに効果がある。


 利用価値りようかちがたくさんあるので、「ハーブの女王」と呼ばれている。


 ※そのへんに生えている野生やせいのヨモギは、おさんぽ中のワンコやニャンコのおしっこがかっていることが多いので、ばっちぃから食べちゃダメだよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る