第9話 猫のお土産

 大きなネズミは、さすがにぼくたちだけじゃ食べきれない。


「残りのお肉は、集落しゅうらくのみんなにお土産みやげにするニャー」


「アプソロブラッティナも、お土産にしましょうニャ」


 残った肉はサバトラが、頭文字イニシャルGはシロブチが、お持ち帰りするらしい。


 っていうか、アプソロブラッティナ?


 何? その舌をみそうな名前?


 この世界では、そんなムダにカッコイイ呪文みたいな名前なの?


 いや、どんなにカッコイイ名前を付けたって、結局は、頭文字イニシャルG。


 頭文字イニシャルGは、触るのはもちろん、見るだけでも全身に鳥肌が立つ。


 ぼくは、頭文字イニシャルGを抱えたシロブチから離れて、サバトラのかげかくれる。


 距離を置いたぼくを見て、シロブチがしょんぼりする。


 ぼくたちのやりとりを見たサバトラが、首をかしげてシロブチに問いける。


「ふたりとも、どうしたのニャー?」


「シロちゃんは、アプソロブラッティナが怖くて、食べられないらしいのニャ」


「アプソロブラッティナは、カリカリして、とっても美味しいのにニャー」


 どんなに美味しくても、どんなにカッコイイ名前でも、あの見た目は変わらない。


 無理なものは、無理。


 頭文字イニシャルGを手放てばなすまで、シロブチには絶対、近付かないぞ。


 そんなこんなで、ぼくたちは集落へ戻ってきた。


 集落に戻ると、サバトラが大きな声でみんなを呼ぶ。


「みんなー、おっきなフォベロミス・パッテルソニが狩れたから、お土産ニャーッ!」


 これを聞いた集落中の猫達が、ニャーニャーと喜びの声を上げながら、集まって来る。


 飼い主の「ごはんだよ~」を聞いて、もうダッシュしてくる飼い猫みたい。


 みんな「うみゃいうみゃい」と、大喜びで肉を食べている。


 同じ集落で暮らすもの同士、こうして助け合って、のんびりと仲良く生きているのだろう。


 こういうのって、微笑ほほえましくて良いよな。


 みんな猫だから、可愛いし。


 ネズミは、フォベロミス・パッテルソニっていう名前なのか。


 これもまた、舌をみそうな長い名前だな。


 この世界には、色々変わった生き物がいるみたいで面白い。


 これから、どんな生き物と出会えるのか、楽しみだ。


 頭文字イニシャルGだけは、なしの方向で。




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Aphthoroblattinaアプソロブラッティナとは?】


 今から3億5920万年くらい前に生息せいそくしていたと言われている、頭文字イニシャルGの祖先そせん


 体長50㎝とか、1mとかいううわさがあるけど、それは夢見がちな誰かさんが流したウソ。

 

 実際に見つかった化石は、約9㎝。


 それでも、頭文字イニシャルGとしては、世界最大級の大きさ。




Phoberomysフォベロミスpattersoniパッテルソニとは?】


 今から800万年くらい前に生息していたと言われている、世界最大級のネズミ。


 体長約3m、体重約700㎏あったと、考えられている。 

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