第6話 猫のお医者さん

「茶トラ先生、お忙しいところをすみませんニャー」


「おや、サバトラさんとシロブチさんとシロちゃんじゃないですニャ~」


 集落しゅうらくはずれで、横たわったサビネコに治療ちりょうしているらしい茶トラネコがいた。


 どうやら、この茶トラがお医者さんらしい。


 おそらく、この集落には病院というものはなく、お医者さんがいるだけなんだろう。


「もうすぐ、サビさんの手当が終わりますニャ~。ちょっと待ってて下さいニャ~」


 茶トラは、サビネコの肉球に緑色の液体をっていた。


 おそらく、薬草をすりつぶした薬だろう。


「サビさん、お薬がかわくまで、このままじっとしてて下さいニャ~」


「分かりましたニャア、乾くまで寝ますニャア」


 サビネコは、そのままスヤスヤとお昼寝を始めた。


 サビネコが寝たのを見届けると、茶トラはこちらへ向かってくる。


「お待たせしましたニャ~。ご家族おそろいで、どうしたんですニャ~?」


「それが……うちのシロちゃんが、木から落ちてしまったのですニャー」


 サバトラが説明すると、茶トラがぼくに近付いて来る。


「まだこんなちっちゃいのに、もう木登りですニャ~?」


「ちょっと目をはなしたすきに、いなくなりましてニャー」


「仔猫は、好奇心旺盛こうきしんおうせいですからニャ~。危ないですから、気を付けて下さいニャ~」


「すみませんニャ。シロちゃんがケガしていないか、て頂けますかニャ?」


「分かりましたニャ~。シロちゃん、ちょっと診せてニャ~」


 シロブチが、ぼくの頭をでながら、申し訳なさそうに頭を下げた。


 茶トラは大きく頷くと、ぼくの手足をばしして、骨が折れていないか確認している。


 続いて、あちこちさわりながら、ぼくに聞いてくる。


「シロちゃん、どこか痛いところはないかニャ~?」


「ミャ」


「ない」と答えると、茶トラはぼくの頭を撫でる。


 仔猫だからか、みんなから、やたらと頭を撫でられる。


 撫でられるのは、気持ちが良いから、別にいいけど。


「どこもケガしてないみたいで、良かったニャ~。あとで痛くなったら、またおいでニャ~」


「ミャ」


 お礼を言うと、茶トラは「どういたしましてニャ~」と優しく笑ってくれた。


 ぼくの親猫達も、揃ってお礼を言った。


 高い木から落ちたら、骨が折れててもおかしくないけど。


 運が良かったのか、それとも体をひねって上手く着地ちゃくち出来たのか。


 なんにせよ、ケガがなくて良かった。

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