第67話 都市伝説のメリーさん、小説にされる。

「あたしメリーさん。今あなたのうしゴボゴボゴボ」


「メリーちゃんヌクトさんのペットになった!? なったのどうなの!?

 メリーちゃんがペットとして服従してる姿を想像してずっと妄想力がテケテケしてたよぅゴボゴボゴボ」


「血の池地獄」


 メリーさんからの電話に出ると、背後にメリーさんが現れると同時にテケテケさんが現れて、テケテケさんは何やら興奮してわめきながら鼻血を噴いてメリーさんに抱きついて、下半身がなくて体を支えられないテケテケさんは、メリーさんを道連れに風呂に沈んだ。

 そして風呂は鼻血に染まった。




「メリーちゃんのペット宣言を聞いてから、もうずっと妄想の炎が止まらなくて止まらなくてぇ……」


「テケテケ、どうせあなたは燃料がなくても脳内の下半身が永久機関なの」


 現在、湯船。

 真っ赤なお湯を全部流して新しいお湯を張りなおしつつ、僕とメリーさんとテケテケさんはまだ少ないお湯に浸かる。

 メリーさんは今日はビジネススーツ。今の水位だと、風呂イスなしで立っててちょうどいい感じ。


 そんな状況でテケテケさんは、目をらんらんとして語った。


「燃料がなくても妄想ははかどるけどぉ、今は良質な燃料が投下されたからいつにも増して妄想力シャカリキだよぅ!」


「うーん、その有り余る妄想エネルギーが何か有意義に活用できたらいいんだけどねー」


「そこはバッチリですよぅ! 妄想エネルギーをフル活用してヌク×メリ主従萌えメリバ小説を一週間で十万文字書き上げましたぁ!」


「予想外の方向性で活用させてきた!?」


「小説のことは分からないけど、多分ものすごく無茶な数字が出てきた気がするの」


 無表情をげんなりさせるメリーさんとは対照的に、テケテケさんは鼻息荒くドヤ顔をしてブラウスの胸元から分厚い紙束を取り出した。

 そしてがくぜんとした。


「濡れてぐしゃぐしゃになってるよぅ〜!?」


「そりゃお風呂に持ち込めばね」


「脳内に下半身しか詰まってないから当たり前のことが分からないのゴボゴボゴボ」


「だんだんお湯がたまってきたねー」


 水位が上がって顔が沈み始めたメリーさんを、風呂イスの上に立たせてあげた。

 その間、テケテケさんはえぐえぐと泣いていた。


「わたしのっ、わたしの七日完徹の苦労の結晶がぁ〜……」


「メリーさん、怪異って寝る必要あるの?」


「あるの。温泉旅行行ったときにあたしもコックリも寝てるの見てるはずなの」


「そういえばそうか」


 話してる間、テケテケさんは泣き続けた。

 それからしゃきっと立ち直ってスマホを取り出した。


「仕方ないから、PDFで送るねぇ〜」


「普通に電子データ残ってた」


「実在の人物の妄想小説をその当人に送るとかどんな神経してるの」


 ぶつくさ言いつつ、メリーさんは眼鏡の位置をスッと直して、スマホに送られてきた小説を読んでみた。

 そしてその無表情が、ボボボッと赤くなった。


「な、な、な、テケテケあなたなんてもの書いてるの」


「あんまりにも妄想力がテケテケしちゃってぇ、思いっきり十八禁のエロエロでぐっちょぐちょな感じになっちゃったよぅ……てへっ」


「本当にテケテケさん、どうしてそれを当人に送りつけられるんだろう」


 とはいえどんな感じのお話なのか、怖いもの見たさはあるし。僕も読んでみよう。

 とスマホを開こうとしたら、メリーさんが血相を変えた無表情で止めてきた。


「ヌクトはダメなの絶対読んじゃダメなの死んでもダメなの!」


「え、なんで?」


 自分のスマホを開こうとしたら、メリーさんに全力で止められた。

 メリーさんは無表情で僕を見上げてまくしたてた。


「こっこっこんな小説読んだらヌクトの脳が下半身に染まっちゃうのサルヤローのサルヤローがもっとサルヤローになっちゃうの!

 こんなの脳内妄想にとどまらないの下半身が暴走して歯止めが効かなくなっちゃうのヌクトもここに書いてあること実践してみたくなってたまらなくなっちゃうのエロエロのエロ星人になっちゃうの」


「そこまで?」


 よっぽど過激かつ情景がありありと思い浮かぶようなお話なのかなあ。

 それはちょっと、怖いもの見たさ半分でむしろ読んでみたくなっちゃうな。


 そしてメリーさんの後ろにいたテケテケさんが、きょとんとメリーさんに尋ねた。


「メリーちゃん、ヌクトさん『も』実践してみたくなるって言った?

 これ読んでメリーちゃん、自分でやってみたいって思ったってことぉ?」


 ぴたり、と止まる空気。

 人形のように微動だにしないメリーさん。いや人形なんだけど。

 そして見ているうちに、メリーさんの無表情が、どんどん赤くなっていって。


「言葉尻をめざとくとらえるんじゃないの」


「「目にシャンプー「がーッ!?」「だよぅ〜!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。テケテケさんも。

 残ったのはただ、きれいなお湯を張り直された湯船と、手の中のスマホだけ。


「……テケテケさんの小説、そんなにすごかったのかなあ。

 いろんな意味でちょっとドキドキするけど、読んでみよう」


 送られてきたPDFデータを開いて、目を通してみる。


 …………。

 ……。






「ヌクト、そういえばこないだ旅行してきたときのおみやげを渡し忘れてたの」


「また排水口の掃除中にやってくる!! お願いだから見ないでー!」

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