第66話 都市伝説のメリーさん、好みのタイプを尋ねる。
「ごきげんようなのヌクト。本日はお日柄もよく」つるっボチャン「ゴボゴボゴボ」
「ふふふメリー嬢、まだまだカーテシーが不慣れでございますね」
「かぼちゃパンツ大公開」
メリーさんからの電話に出ると、メイド服姿のメリーさんが湯船のヘリに降り立つのと同時に排水口からあかなめさんがヌルョンと出てきて、メリーさんはスカートをつまみ上げてあいさつするカーテシーをやって、足を滑らせて風呂に沈んだ。
「あたしにコックリ的なかわいさを目指すのは無理だと悟ったの。
だから方向性を変えて、原典では見た目の悪い怪異だったのに今こうしてイケメンを気取ってるあかなめを参考にしようと思ったの」
「メリー嬢に手本としていただけて光栄でございます」
現在、湯船。
僕の右隣にあかなめさんが浸かって、メリーさんが左隣で風呂イスに立って浸かっている。
あかなめさんはふむと言って、あごに白手袋をはめた手を当てて考えるそぶりを見せた。
「わたくしめが今のように顔のよい怪異となったのは、まあ紆余曲折あったのでございますが。
簡単に申し上げれば、許されたからでございます」
「許された、なの?」
メリーさんの疑問の声に、あかなめさんはうなずいた。
「この時代のさかんな創作活動により、我々怪異が原典とは異なる特徴を持つことの許容範囲が日々広がってございます。
その中で、わたくしめのように本来伝えられている姿かたちとまるで異なる容姿を持ったとしても、多様性などの言葉で許容されるのでございます」
そしてあかなめさんは、自分の髪をなでつけてお湯をしたたらせてのたまった。
「つまりわたくしめが男前なのは、世界に求められたからでございます」
「その世界だいぶせまい気がするよ?」
僕のツッコミは軽くスルーして、あかなめさんはメリーさんのひたいを指で小突いた。
「世界というのは大仰な表現かもしれませんが、自身を変えることは自身の求める世界に求められることだとわたくしめは事実考えてございます。
それは広く世界そのものであることもあり、自身が所属したいと思う特定のコミュニティであることもあり、あるいは自分自身の心という小さく大切な世界でもあろうと、わたくしめは思う所存でございます」
「なんか、あかなめのくせにいいこと言ってるふうなのがむかつくの」
ぽっくり靴で蹴り蹴りするメリーさんに対して、ノーダメージのあかなめさんは言葉を続けた。
「長々と講釈を垂れたのでございますが、結論は単純でございますね。
メリー嬢が誰に求められたいか、それを基準に考えるのが理想の自分を目指すにあたり一番の目標となりましょう」
そして薄く笑みを浮かべて言った。
「つまりヌクト様の好みを聞いてそれに合わせる、それが最善でございましょう」
「紆余曲折を経て身も蓋もない結論が出た」
まあ実際メリーさんの目的って、簡単に言えば僕と一緒にいたいって話なんだからそれでいいと思うんだけどね。
で、言われたメリーさんを見ると。
メリーさんは無表情のまま、顔色だけ真っ赤にしていた。
「ヌクトの……好みを聞いて……合わせる……なの」
カチカチのメリーさん。
そんなメリーさんの後ろにあかなめさんが回り込んで、背中を押した。
「さあメリー嬢。善は急げでございます。
この機会に、ヌクト様がメリー嬢にどのような女性でいてほしいと思っているのか、聞いてみるとようございましょう」
「え、ちょ、え、待つの」
ぐいっと僕に近づけられるメリーさん。
メリーさんは僕の顔を見上げて、赤い無表情のままぱくぱくと口を動かした。
「え、え、えっと、なの」
「うん」
しどもどと無表情な口を動かすメリーさんに、僕は冷静にあいづちを打った。
そのまま向かい合って、メリーさんはひたすら言葉になりきらない声を発し続けた。
「あ、あの、ヌクトは、その、女性の、えっと、好みの、あの、好きな、あの、あたしの」
「うん」
僕はただ落ち着いて、メリーさんを見守った。
そうしているうちに、不意にメリーさんはスンッと無表情な無表情に戻って、シャンプーを構えた。
「あたしばっかりドギマギしててヌクトが終始冷静なのむかつくの」
「目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。あかなめさんも。
「……冷静に考えてみれば、今のメリーさんの服装って全部僕が用意したものだから、僕の好みに染まりまくってるって言えるんだよね」
次に渡す服も考えてて、探してる最中だし。
まあそれはそれとして、好みの服の話とか、メリーさんと直接できたら楽しいだろうなとも思うけど。
『あくまで参考にだけど、ヌクトの好みの女性のタイプだとかフェチを感じる仕草だとかせっかくだから根掘り葉掘り聞いてみたいと思うから教えてほしいの』
「メッセージアプリだったら普通に聞けるじゃんメリーさん」
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