第63話 都市伝説のメリーさん、オニオンスープを作る。
「あたしメリーさん。そしてこちらは山盛りのたまねぎなの」
「ゴボゴボゴボ」
メリーさんからの電話に出ると、背後にメリーさんが現れると同時に大量のたまねぎが降ってきて、僕はたまねぎに埋もれて、風呂に沈んだ。
「今日はオニオンスープを作ることにしたの」
「多分そうなるだろうなーと思ってたけど、完全に湯船で調理するつもりだね」
大量のたまねぎを洗い場の方に出して、現在湯船には僕とメリーさん。
そして洗い場でたまねぎと一緒にくつろいでいる、人面犬さん以外のいつもの面々。
それぞれ作業担当があるらしく、メリーさんが手書きしたゼッケンがみんなの胸についている。
「毒味担当のコックリじゃんねー。毒味ってどういうことじゃんね?」
「出汁担当のテケテケだよぅ……メリーちゃん、わたしどうしたらいいのぉ? 何か煮出せばいいのぉ?」
「アク取り担当のあかなめでございます。任命された以上は、精いっぱい雑味が残らないようアクをすくう所存でございます」
「よろしく頼むの」
メリーさんはビジネススーツからメイド服に着替えて、調理モード万全だ。
「さっそく作るの。まずはブイヨンを作るの。
テケテケ、湯船にゴーなの」
「分かったよぅ。えいっゴボゴボゴボ」
「ナチュラルに頭まで突っ込むなあ」
「そして煮出すの」\ピッ オイダキヲシマス/
「あっテケテケさんが出汁? テケテケさんの煮汁でスープ作るの?」
「はわわぁお風呂があったまるよぅはらわたが煮えくり返るよぅ〜」
「その慣用句は絶対用法が違うと思う」
「浮いてきたアクを取るの。あかなめ、ゴーなの」
「どんな細かなアクものがさずなめ取ってみせましょう。ベベロベロベロ」
「アクとあかって一文字違いだもんねー」
「たまねぎを切るの」包丁タタタタタン「ぐすぐすなの。涙が出るの」
「メリーさん、人形だけどたまねぎが染みるし涙も出るんだ」
「切ったたまねぎを湯船にどさーなの。しっかり火を通して、完成なの」
「おいしそーじゃんねー!」
「おいしそうかなー?」
完成したのは、湯船一面の茶色い液体。たまねぎどっさり。
「さっそく試食なの。コックリ、ゴーなの」
「いただきまーすじゃんねー! もぐもぐ、ヴッ」ちーん
「コックリさーん!?」
オニオンスープを食べたとたん、コックリさんは白目をむいて倒れた。
メリーさんが無表情のままうなずいた。
「イヌ科の動物にはたまねぎは猛毒なの。これだけ効くなら人面犬も寄りつかないの」
「言ってる場合!? コックリさん死んじゃうよ!?」
「たまねぎ中毒の症状は溶血性貧血なの。対処法は輸血なの。
というわけでテケテケ、これあげるの」
「こっこっこれはほのぼのとした児童向けアニメでありながら男の子たちの強い友情と信念による対立の関係性が異様に深くドロドロとしていて全国のいたいけな少女たちにソッチの道への扉を開かせたという伝説の作品『たまたま乱丸くん』の原作小説!
あああ生の本をこの目で見ることができるなんてっ、ああもう挿絵の時点で距離の近さと熱意がすごくて、あっあっ妄想がテケテケして、ハァハァハァハァブフゥーッ!!」
「鼻血噴いたー!?」
「血を補給して復活じゃんねー!」しゃきーん
「コックリさん……それでいいの? テケテケさんの鼻血で復活してそれでいいの?」
「ちなみに、実際の犬のたまねぎ中毒は日にちが経ってから現れることもあるし命にかかわる可能性のある重篤なものなの。
これを見ているよいこのみんなは絶対にマネしちゃダメなの」
「誰にアナウンスしてるのメリーさん?」
「で、味はどうだったのコックリ?」
メリーさんに尋ねられて、コックリさんはうーんと首をひねった。
「悪くはないじゃんねー。でもちょっと塩気が足りないじゃんねー」
「塩なの。了解したの。塩をひとつまみ加えて味を整えるの」でろーん
「溶けてる溶けてる!! 塩を素手で触って成仏しかけてるよメリーさん!?」
「ぬっくん! また甘い言葉で中和するじゃんね!」
「そうだね分かった!
メリーさんかわいい! メリーさんエロティック! メリーさん愛してるよ! メリーさんウェディングドレスはどんなのがいい!?」
「ちょちょちょ、やめるのヌクト、ムリなのそういうの言うのやめるの」カチンコチン
「よし! メリーさん復活だ!」
「ふざけんじゃないの調子乗ってんじゃないの」
「目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。他のみんなも。
残ったのはただ、湯船いっぱいのオニオンスープのみ。
「……さすがにこれを飲みたくはないから、普通に風呂として使おう」
ゆっくりと浸かる。
たまねぎの成分って、何か入浴剤的効果ってないのかな。
少しぬめりがあったりとか、ちょっと肌に効きそうな感じがするよね。
「このあとオニオンスープは、この犬めがおいしくいただきましたワン」
「たまねぎ中毒にならないし、やっぱり犬じゃないよね? 人間だよね?」
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