第54話 都市伝説のメリーさん、機械の強さで負ける。
「あたしメリーさん。またチキンナゲットを買ってきたの」
「ゴボゴボゴボ」
メリーさんからの電話に出ると、メリーさんと一緒に大量のチキンナゲットが出現して、僕はチキンナゲットに埋もれて、湯船に沈んだ。
「やっぱりチキンナゲットはおいしいの。もぐもぐなの」
「こないだ山盛り食べたばっかなのになあ」
「でもでもぉ、おいしいですからたくさん食べられますよぅ」
「なんでまたテケテケいるの」
現在、湯船に僕とメリーさん、そしてテケテケさん。
三人でチキンナゲットをつまみつつ、スマホで鑑賞しているのは。
『こんこんこんばんコックリさーん! コックリさん系配信者の
「はぁうぅ、コックリちゃんかわいいよぅぅもぐもぐ」
「欠かさず定期的によくやるのもぐもぐ。あたしだったら飽きそうなのもぐもぐ」
「まあコックリさんもお仕事としてやってるんだしねもぐもぐ」
コックリさんの配信を、三人仲良く視聴中。
ひとつのスマホで三人見てるから、みんなでむぎゅっとくっつく形になる。
メリーさん、さりげなく真ん中に入って僕とテケテケさんが密着しないようにガードしてるね。テケテケさんはテケテケさんでメリーさんと密着するのがむしろ幸せそうだけど。
「うへへへぇ、メリーちゃんもかわいいから好きぃ……」
「全方位対応下半身なの」
メリーさん、表情が変わらないからイヤがってるのかどうか分かりにくいな。
まあシャンプーが出てこないなら、そこまでイヤがってないって判断しておこう。
そのまま配信を見る。
『あっれーなんか機械の調子がおかしいじゃんねー? これどうやったら直るんじゃんねー?』
「トラブルみたいだね」
「都市伝説界の知性派のあたしの出番なの」
メリーさん、テケテケさんにメッセージを送ってる。状況を確認するみたい。
「えーっとなの、あたしの知恵袋によれば……この機械のこの症状だと、これをこうすれば直るの」
「知恵袋イコールスマホでネット検索してマニュアル呼び出し」
『あっれー? 友達に聞いたやり方やっても直らないじゃんねー?』
「ダメみたいだよメリーさん」
「むむむ、なの」
メリーさん、無表情でマニュアルとにらめっこしながら考えてる。
いろいろメッセージを打って、コックリさんもそれを参考に頑張ってるみたいだけど、うまくいかないみたい。
「あのー、メリーちゃん、わたしが見てみてもいいかなぁ?」
テケテケさん、横からメリーさんのスマホをいじって、マニュアルを読み込んだ。
それから何か考えて、メッセージを打って送信。
『あ、直ったじゃんね! これでバッチリパーフェクトに配信できるじゃんね!』
「おー、テケテケさんの方法でいけたみたい」
「えへへぇ、よかったぁ」
「むむむ、なの」
メリーさん、無表情を気持ちぷくーとさせてテケテケさんをにらんでる。
テケテケさんは照れくさそうにもじもじした。
「わたし、生前は社会人としてがんばろーって気合い入れてましたのでぇ……なのでその、マニュアル読み込んだりとか機械をうまく使えるようになろうとか、そういうの頑張ってたものですから」
「ああ、なるほど」
テケテケさん、新社会人として活気あふれる人だったんだろうなあ。
今は都市伝説で脳内がちょっと下半身だけど、その当時はフレッシュで……
「あのあのっ、ホントに社会人としてがんばろーって動機ですからねぇ!?
公式設定を読み込んで妄想するのに慣れてたとか、機械に強いといろいろムフフなアレコレをするのに便利だとか、そんなの全然ないですからぁ!?」
「あーうん、言わなきゃそんなこと疑わなかったのに」
顔を赤くしてしどろもどろに言い訳するテケテケさんを見て、自分が生ぬるーい笑顔になったのが分かった。
一方でメリーさんの顔は、無表情だけどどんよりとして暗かった。
「都市伝説界の知性派たるこのあたしの知性が、下半身パワーに負けたの」
「まあ、プリミティブな欲求が原動力だと覚えが早いのってよくある話だし」
「あっあの、メリーちゃん、メリーちゃんもスマホを使いこなしててすごいなぁって思うよぉ? わたし生前はスマホ世代じゃなかったから、使いこなすまですごく時間がかかったからぁ」
「テケテケさんもスマホ使うの?」
「はいっそれはもう! 各種SNSにイラスト投稿サイト、小説投稿サイトにも登録して毎日毎日ムフフな妄想をテケテケのテッケテケに補給三昧ですよぅ〜!」
「プリミティブな欲求が原動力すぎる」
テケテケさんは目をキラキラさせて、ふんすふんすと鼻息荒くして、両手をグッと顔の横で握りしめた。
そして下半身がないのにそんなポーズを取ったので、湯船に沈んでいった。
メリーさんにちらりと目をやる。
メリーさんは暗い無表情で、ぶつぶつと独り言を続けていた。
「あたしは都市伝説だけど電話を使いこなせる都市伝説界の知性派を自称してたの……でもテケテケの方が機械に強そうなの……これはアイデンティティの危機なの存在意義のクライシスなの」
「メリーさん、メリーさんには他にもいいところいっぱいあるよ」
「たとえばなんなの」
「かわいいとこ」
「真顔でド直球やめろなの」
「目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。テケテケさんも。
残るのはただ、食べ残されたチキンナゲットのみ。
「……一人でこんなに食べきれないし、なんかアレンジレシピでも探すかぁー」
こういうときこそ、文明の利器って便利だよね。
コックリさんの配信が終わったら、レシピを検索してみよう。
『それじゃー雑談終わって今日の配信テーマじゃんね! チキンナゲットのアレンジレシピじゃんねー!』
「タイムリーだしなんでみんなそんなチキンナゲット推しなんだろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます