ご風呂め

第48話 都市伝説のメリーさん、ちょん切る検討をする。

「あたしメリーさん。今あなたのうしゴボゴボゴボ」


「めめめメリーちゃんやっぱり男の人とお風呂に入るの緊張するからぁっ、わたしとくっついて体を隠してぇ〜っ! ゴボゴボゴボ」


「自分からついてきたのになんというわがまま」


 メリーさんからの電話に出ると、背後にメリーさんとテケテケさんが現れて、テケテケさんは恥ずかしがってメリーさんに抱きついて、下半身がないから体を支えられなくて、もろとも風呂に沈んだ。




「ふざけんじゃないのテケテケ」


「ごめんねぇメリーちゃんゴボゴボゴボ」


 いつもの僕の家のお風呂。

 メリーさんは怒り心頭のいつもの無表情で、メイド服を華麗に着こなしながら、テケテケさんの頭を踏みつけた。

 テケテケさんは謝りながら湯船に沈んでるけど、なんとなくうれしそうな顔をしている。


「えへへぇ、都市伝説になってから人と仲良くする機会なんてなかったし、そもそも生前から一緒にお風呂に入るようなお友達なんていなかったからぁ、今ちょっとうれしいよぉゴボゴボゴボ」


「テケテケさんが楽しそうで何よりです」


「ヌクト、甘やかすんじゃないの。勝手についてきてあたしたちのお風呂タイムを邪魔する邪魔者なの。

 水場の妖気とあたしの電話回線で簡単に入ってこられるからって、本当に相乗りされたらたまったもんじゃないの」


「前にあかなめさんが言ってた理屈だね。

 危険な怪異が来たら困るけど、テケテケさんは別に危害を加えてくるわけじゃないから、ひとまずは安心かな」


「やっぱりヌクトは露出度の高い怪異が好きなの」


「都市伝説界隈の露出度って臓物のこぼれ具合を指す用語なの?」


「お見苦しいものをまろび出しててごめんなさいぃゴボゴボゴボ」


 テケテケさんは胴体の断面を隠そうとして、体を支えきれなくて湯船に沈んだ。

 下半身がないとお風呂入るの大変そうだね。


「……ってあれ、なんかテケテケさん浮いてこなくない?」


 湯船の中でテケテケさん、髪の毛と白いブラウスをゆらゆらさせて、ボコボコと泡を吐き出しながらなかなか顔を上げてこない。

 メリーさんと顔を見合わせて、しばらく様子を見てみた。

 ボコボコ、ボコボコ。あぶくが上がる。そしてそのあぶくに混じって。


「なんかお湯が赤くなってきたんだけど!? 血!?」


「さっさと顔を出すのテケテケ。鼻血噴いてる場合じゃないの」


「はぅわ!?」


 メリーさんに頭を蹴っ飛ばされて、テケテケさんはざばりと顔を上げて、わたわたと弁明した。


「あわあわちちち違うのこの鼻血は興奮したとかじゃないの! 決してお湯に沈んでヌクトさんのぱおん様が目に入って凝視してたとか、そんなんじゃなくてぇ!」


「ひとまずお仕置きなの」


「目にシャンプーだよぅ〜!?」


 テケテケさんは目を押さえて悶絶して、湯船に沈んだ。

 メリーさんは無表情をぷんぷんと怒らせた。


「油断もスキもないの。テケテケは下半身がないせいで頭に血が集まって年中ゆだってる変態怪異なの」


「下半身があるのとないのとどっちが変態をこじらせずに済むか、議論の余地があるねー」


「そしてヌクトも悪いの」


「矛先が向いてきた」


 メリーさんはむすりとした無表情を、僕の方に向けてきた。


「ヌクトは油断しすぎなの。ぱおん様を無防備に露出させるんじゃないの」


「自宅の湯船でぱおん様が露出してることを責められるの、誠に遺憾なんだけど」


「思いついたの。ちょん切っておけばいいの」


「その一切表情変えないまま『ナイスアイデア』って顔色を出すのどうやるの? そして急に怪異的恐ろしさ全開になるじゃん」


 そこで沈んでのびていたテケテケさんがざばりと顔を上げた。


「メリーちゃんぱおん様切り取ってどうするの!? 持っとくの!? ヌクトさんのぱおん様を切り取って大事に大事に肌身離さず持っとくのぉ!?

 あわわわなんてマニアックなのメリーちゃん! ゆがんだ独占欲で意中の相手を切り取って独り占めなんて! そのぱおん様をどうするの想像しただけで心がテケテケしちゃうよぅ!

 はぁぁぁ下半身がある人はやることが違うよぅ〜!」


「黙るの脳内下半身」


「目にシャンプーだよぅ〜!?」


 テケテケさんは目を押さえて悶絶して、湯船に沈んだ。

 メリーさんはこちらに顔を向けて、無表情を気持ち赤くした。


「あたし別に、持っとこうとか独占しようとかこれっぽっちも思ってないの」


「恥じらいの顔をしてるとこ悪いんだけどちょん切る前提の話をされるの恐ろしいからやめてほしいなー」


 そこで沈んでのびていたテケテケさんがざばりと顔を上げた。


「あのメリーちゃんが恥じらいの顔!? そんなののびてる場合じゃないよ絶対見ないといけないよ興奮妄想特大マックスだよぅ!!」


「テケテケ、もうほっぽり出すの」


「「目にシャンプー「がーッ!?」「だよぅ〜!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。テケテケさんも。

 残ったのはただ、鼻血が混じって薄く赤色がかった湯船だけ。


「……ここに浸かってるの気分的にやだなー。お湯を張り直すのめんどくさいからそのまま入るけど」


 なんかの怪談話で、血のお風呂には美肌効果があるとかなかったっけ。

 テケテケさんの鼻血で美肌になっても、なんかうれしくないけどさ。






「ヌクト……テケテケの体液に浸されてリラックスしてるの、さすがにドン引くサルヤローなの」


「いやリラックスはしてないよ? 普通のお風呂相応に浸かってるだけで」

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