第45話 都市伝説のメリーさん、幼女認定される。
「あたしメリーさん。今から朝ごはんをゴボゴボゴボ」
「ビュッフェだからって取りすぎだよ」
一夜明けて、朝ごはん。
朝食ビュッフェでおいしそうな料理の数々を見て、テンション上がっていろいろ取りまくって、メリーさんは料理の山に沈んだ。
「たらふく食べて満腹満腹ーじゃんねー! 二日目はたっぷり遊ぶじゃんねー!」
「なんか、アトラクション施設があるとか書いてあったよね。最初に届いたメールに」
宿泊棟から遊び場に向かう道すがら。メールを見返してみる。
レジャーアトラクション「紫の鏡」って書いてあるね。
「都市伝説の『紫の鏡』ってあれだよね。その単語を二十歳まで覚えてると死んじゃうとかなんとか」
「都市伝説『イルカ島』と同じ類型のものなの。その言葉を早く忘れないと不幸なことが起こると意識させて、忘れようと意識するほど頭に残ってびくびくしちゃうってシロモノなの。
でもその紫の鏡がどうアトラクションになるのか見当がつかないの」
「肌年齢を測れますですじゃ」
「肌年齢」
なんか一緒に歩いてきたムラサキババアさんが説明してくれた。
「紫の鏡は少年少女趣味があるのですじゃ。だから二十歳を超えた人には失望して呪うのですじゃ。
けれどそうして見境なく呪っていてもむなしいだけなので、無理くり二十歳未満だとこじつけて納得するために実年齢以外のいろんな年齢を測定できるようになったのですじゃ。
肌年齢の他にも、血管年齢、骨年齢などさまざまな年齢の測定ができますですじゃ」
「その手の年齢を気にするのは基本二十歳を過ぎてる人なんだよ」
「肌年齢とか分かるのはアトラクションでもなんでもないの」
で、旅館に併設されたアトラクション施設。
紫色の鏡がそこらじゅうに設置された、さながらミラーハウスみたいな建物の中。
その建物の中心、とりわけ大きくて立派な紫色の大鏡から、声が響いた。
『ちゃんボクが判定するですぅ。ちゃんコックリ、あなたの外見年齢は十七歳ですぅ。
すばらしいですぅ。若々しさの記号に満ちあふれたJKルック、毛穴すらないように感じさせるなめらかな肌。このまま永遠に歳を取らないと錯覚させるエターナルJKですぅ』
「やったじゃんねー! あーしちゃんとJKに見えるって言ってもらえたじゃんねー!」
「めちゃくちゃ楽しんでるね」
「コックリの外見は配信用アバターなんだから毛穴なんてないし老けなくて当然なの」
正面の大鏡には今宣言した年齢がデジタル表示みたいに映し出されて、周りのミラーハウス状態の鏡がビカビカと光を乱反射させて盛り上げる。目がチカチカする。
周りの鏡には外見年齢じゃなくて他のいろんな年齢も表示されてるけど、見ないでおこう。本人が気にするかは分からないけど、実年齢とかあるみたいだし。
『続いて判定するですぅ。ちゃんあかなめ、あなたの味覚細胞年齢は八歳ですぅ。
お風呂のあかという好きなものをずっと食べ続ける偏食ぶり、けれどおいしいお肉はガツガツ食べちゃうその味覚センスは小学生男児のようですぅ』
「ふふふ、百年以上も生きた身で幼子のようと言われるのは、不思議な感覚でございますね。
けれど若く見られるというのは、悪くない心地でございます」
「ものは言いよう」
「要約すると『好きなものばっかり食べててお肉ならおいしいと思う子供舌』なの」
『さらに判定するですぅ。ちゃんヌクト、あなたの恋愛年齢は十三歳ですぅ。
異性との触れ合いにスレた感覚がなくて、一度恋した相手とずっと添いとげるのを当たり前に感じている、そんな純粋で青い恋愛観の持ち主ですぅ。
ついでに異性への性的興味という点では中学生なみに持っているですぅ』
「なんかめちゃくちゃ恥ずかしいこと言われた気がする」
「おこちゃま恋愛観なヌクト、ぷぷーなの」
「そう言いつつメリメリ〜、背筋を伸ばしてそわそわしだしたのはなんでじゃんね〜?」
「よかったですねメリー嬢、ヌクト様は心に決めた女性に一途な人間でございますようで」
「二人ともその口を閉じて目をつぐんでるの」
「「目にシャンプー「じゃんねー!?」「でございますねぇ!?」
コックリさんとあかなめさんはシャンプーを食らってダウンした。
『最後にちゃんメリーですぅ……むむっ、これは! ですぅ』
「なんなの」
メリーさんに注目した紫の鏡が、チカチカと光を反射してふるえだした。
『見事な幼女性ですぅ。外見の愛らしさもさることながら、注目はその精神性ですぅ。世間ズレしきらず無垢であどけなく、何より好きな男の子に素直になれないその花も恥じらうようなウブな乙女心ですぅ。
これは完璧な幼女ですぅ。ちゃんボクが求める真の幼女ですぅ。おまけに人形だから決して老化しないエターナルパーフェクト幼女ですぅ』
「乙女心とか言うななのあたしはヌクトに恋愛感情とかこれっぽっちもいだいてないの」
『目にシャンプーですぅ〜』
「目どこ?」
シャンプーをぶっかけられた正面の鏡は、ぷるぷるふるえてる。手がないから顔を拭けなくてかわいそう……いや顔もないけど。
なんて思ってたら、ぷるぷるがどんどん激しくなっていく。
『ハァハァハァ……これはたまらないですぅ。パーフェクト幼女性に加えてツンデレによる攻撃性まで兼ね備えて、ちゃんボクの嗜好にジャストフィットですぅ』
「まずいですじゃ! 紫の鏡は少女趣味に加えてマゾヒストのケもあるのですじゃ! かがみのMはマゾのMですじゃ!」
「趣味嗜好は個人の楽しみだけどだいぶ末期的な趣味してない?
というかムラサキババアさん、この全方向紫のパープルミラーハウスで銀色スーツだから目がすごいチカチカする」
『ハァハァちゃんボクはちゃんメリーがほしいですぅ。ちゃんメリー、ちゃんボクのモノになれですぅ』
「え、ちょっと待つの、ちょ、あーれーなの」
「メリーさーん!?」
紫の鏡の表面が波打って、栓を抜いたお風呂のようにメリーさんが吸い込まれて鏡の中に沈んでいった。
え、ちょっと、これどうなるの?
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