第43話 都市伝説のメリーさん、ティーパーティーする。

「あたしメリーさん。今エレガントにお茶を淹れてるのゴボゴボゴボ」


「お茶を高いところから注ぐのは必須じゃないよ?」


 旅館の部屋、夕飯を終えて時間も空けて。

 ティーパーティーのためにメイド服のメリーさんがお茶のポットを用意して、カッコつけて高いところから注いで、思いっきり無表情の顔面にぶちまけてお茶に沈んだ。




「ひゃっほーじゃんねー! ケーキスタンドじゃんねー! これでお菓子食べるの夢だったじゃんねー!」


「レンタカーで来たの、これ持ってくるためってのもあったんだよね」


 現在、和室。

 その中央のちゃぶ台に、まだお菓子の載せられていないケーキスタンドが鎮座。三段重ねの。

 その横でメイド服のメリーさんが、無表情で背筋を伸ばしてすました雰囲気で立っていた。

 雰囲気を出してるのはいいけれど、ぶちまけたお茶でびっちょびちょだしテーブルの上に立つのは行儀が悪いよ。


「さっそくスタンドにお菓子を並べるの。まずはオーソドックスに温泉まんじゅうなの」


「オーソドックスの基準をメリーさんのおやつ事情じゃなくてケーキスタンドの方に合わせてあげない?」


「あたしがルールなの。ケーキスタンドのくせに和菓子を載せられる屈辱を楽しむがいいの」


「ケーキスタンドになんの恨みが」


 そこでコックリさんがはっと何かに気づいた顔をした。


「そういう観点で考えると、ケーキスタンドにマカロンとか載せてるのも本来の役目じゃない屈辱的な使い方ってことじゃんね!」


「アフタヌーンティースタンドって書かれてることもあるし、それは本来の使い方の範疇はんちゅうだと思うよ?

 そしてあかなめさん、しれっとお風呂で回収してきたあかを載せようとしないでください」


 そろりと手を伸ばしたあかなめさんを制止する。

 あかなめさんは整った顔をしょんぼりさせて、手に持ったあかをベロベロ平らげた。


「で、誰かまともな洋菓子は持ってきてないの? このままだとメリーさんの温泉まんじゅうに全部スペース取られて温泉まんじゅうスタンドになっちゃうよ」


「あのっ、よければわたしの栄養ドリンクあげますから、並べてくださいぃっ」


「それはスタンドに並べるものじゃないと思うしなんでいるのテケテケさん」


 いつの間にか混じっていたテケテケさんが、おずおずと栄養ドリンクを並べた。ずらずらと。

 誕生日ケーキのロウソクじゃないんだからさ。


「おれはゴミ捨て場で拾ったスプーンやフォークでも並べておくかぁ」


「それつまりゴミだよね? 食べ物ですらないよね? そしてなんであなたもしれっといるの」


 ゴスロリ男性声の人が、ケーキスタンドにねじれたスプーンやフォークを並べていった。

 栄養ドリンクの瓶と合わさって光沢が増した。別にうれしくもないけど。


「わしは生の肝臓を提供しますですじゃ」


「もうレバーはお腹いっぱいだよ? そしてムラサキババアさんなんで客室に居着いてるの」


 ムラサキババアさんがケーキスタンドのてっぺんに、まるごと一個の生のレバーを鎮座させた。儀式の祭壇?


「ヌクト。ヌクトも何かお菓子を置くの。みんなで持ち寄った食材でケーキスタンドを完成させるの」


「これそういう趣旨のイベントだっけ……とりあえず手元にあるのはこれだけだよ、近所のスーパーで買って持ってきたおせんべい」


「ヌクトも和菓子だしおまけにしょっぱいものなの」


 というわけで、ケーキスタンド完成。

 温泉まんじゅうとおせんべいが並び、スプーンフォークと栄養ドリンクの瓶が光沢を添え、てっぺんにてらてらの生レバーが鎮座するケーキスタンド。

 うん、控えめに言って邪教かな?


「もう、見た目はどうでもいいの。おいしく食べられればなんでもいいの」


「おいしく食べられるかなー?」


「おまんじゅうとおせんべいをいただくの。もぐもぐなの」


「このメニューなら、飲み物は紅茶じゃなくて緑茶が欲しいよね」


「それなら問題ないの。あたしがさっき淹れたお茶は部屋にサービスで置いてあった緑茶のティーバッグなの」


「緑茶であの高所から注ぐやつやったの?」


 まあ、緑茶だっていうならちょうどいいんだし、いただくけど。

 うん、おまんじゅうとおせんべいに合っておいしい。


「(こそこそ)メリーさんのお茶とってもおいしいじゃんねー毎日飲みたいじゃんねー」


「(こそこそ)入浴が終わったら帰るのではなくそのまま僕の家にいてほしいのでございます」


「コックリさんあかなめさん、僕の背中でこそこそして心の声を代弁しないで?」


 背中に張りついていた二人が、にまにまと顔を出してきた。


「おやおやぬっくん〜、代弁なんて言うってことはホントにそう思ってたじゃんね?」


「いやこれは言葉のアヤで」


「メリー嬢、これは期待に応えるべきでございましょう。つまりは」


 その場にいた僕とメリーさん以外の全員が、声をそろえた。


「「「「「同棲「じゃんね!」「でございましょう」「するのかぁ」「ですじゃ」「しちゃうのぉメリーちゃん!?」


「全員黙って口を閉じてろなの」


「「「「「「目にシャンプー「がーッ!?」「じゃんねー!?」「でございますねぇ!?」「かぁ」「ですじゃー!?」「だよぅ〜!?」


 目の泡を(ポットのお湯で濡らしたタオルで)洗い流している間に、この部屋の宿泊客じゃない人たちは退散した。

 ゴスロリの人とムラサキババアさんだけじゃなくて、いつの間にテケテケさんまでいたんだろう。


「バカなこと言ってないで、ティーパーティーを楽しむの。このためにここに来たの」


 メリーさんがお茶のおかわりをついで、まんじゅうをもっしゃもっしゃ食べまくってる。

 それはごもっとも。みんなでおやつを食べて、楽しもう。






「生レバーもっちゃもっちゃなの」


「メリーさんお腹壊すよ……人形に壊すようなお腹はないかもしれないけど」

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