第41話 都市伝説のメリーさん、卓球場で遊ぶ。

「あたしメリーさん。今卓球場にもがもがもが」


「ボールプール状態」


 温泉施設の中に作られた一角、卓球場。

 メリーさんは一番乗りにそこにワープして、ピンポイントにピンポン玉のカゴに突っ込んで、ピンポン玉に沈んだ。




「よっしゃーやったるじゃんねー! 十円玉を正確に指定の文字に運ぶような正確無比なコントロールショットでけちょんけちょんにしてやるじゃんねー!」


「どんな微細なあかものがさずなめ取り風呂場を美しく保つ、このわたくしめの美学を体現するがごとき鉄壁の防御戦術で貴殿を魅了させてみせましょう」


 ぶんぶんと素振り。

 コックリさんもあかなめさんも、気合いが入ってる。

 服装はいつものセーラー服と執事服だけど。動きにくくないのかな。


「ヌクト、浴衣だとひらひらして動きにくそうなの。いつも通り全裸でいた方がよく動けると思うの」


「全裸で卓球やるのは絵面がまごうことなき変態なんだよなぁ〜」


 ともかく、卓球やってみようか。卓球台の両側に分かれて立つ。

 流れでダブルスやる感じに。コックリさんとあかなめさんペア、僕とメリーさんペア。


「ってちょっと待って、メリーさん届かなくない?」


「台の上が見えないの」


 僕の隣でブレザー姿のメリーさん、両手でラケットをかかえてちょこんと立ってる。

 背伸びをして両手を伸ばしても、台の上に届かない。


「ルール違反だしマナーも悪いけど、メリーさんは台の上に立ってやろうか」


「すべてを踏み越え卓球台の頂点に立つの」


「物理的に立ってるだけだね? あと卓球じゃなくて卓球台の頂点でいいの?」


「あとあれじゃんねー審判ほしいじゃんねー。そこのゴスロリさーん、ヒマなら審判お願いしたいじゃんねー!」


「審判かぁ。確かにおれはヒマだし、やってやるかぁ」


「あっ正体不明の人」


 さっきから時々見かけるゴスロリ男性声の人が、卓球台の横でスコアボードを脇に置いてスタンバイした。

 ただ居合わせただけの人なのに申し訳ないけど、なんかやる気みたいなのでお願いしとこう。


「さっそく行くじゃんね! 必殺コックリ流ギザ十サーブじゃんねー!」


「こっこれは魔球なの! コックリさんの儀式の十円玉のごとく完全に制御された打球なの。

 しかもジグザグ複雑に動く軌跡なの、これはまさに一九五〇年代に製造されたフチがギザギザの十円玉、いわゆる『ギザ十』のごとき幻惑球なの!」


「いや遅くない? ピンポン玉の飛ぶ速度がコックリさん準拠になって、指の下でモゾモゾ動く十円玉のあのスピードしか出てないよ?」


 空中をノロノロと飛んでしかもジグザグな分、こっちに届くまでやたら時間がかかった。

 メリーさんは余裕を持って狙いすまして、ラケットを野球のフルスイングのごとく振り抜いて叩き返した。


「その強打ではわたくしめを抜き去れるものではございません! あかなめ流遠距離返球術ベベロベロベロ」


「ラケットを舌で操って返球したの! あの長い舌によるリーチで遠く飛び去った玉も拾うことができるの!」


「いやずるくない?」


 ともかく打ち返すけど……って。


「うっわ、ピンポン玉がよだれでベトベトじゃん。さすがにダメだよこれは」


「ヌクト、返球サボるななの」


 よだれに引いて返しそこねて、ピンポン玉はネットにかかった。


「得点かぁ。コックリあかなめチームにまず一点かぁ」


「審判ありがとうございますゴスロリの人」


「ヌクト、先制点を取られたの。シャクなの。ヌクトもまじめにやるの」


「僕十分まじめにやってると思うんだけどなー」


「持ち味を活かすの。つまり全裸卓球なの」


「不真面目極まりなくない? 僕の持ち味って全裸しかないの?」


「ぬっくん、この濃いメンバーの中にいちゃ全裸くらいしか特徴がないじゃんね!」


「みんなが濃すぎるんだよ」


「つべこべ言わずにさっさと脱ぐの」


「あーれー」


 帯を引っ張られてくるくるされて、全裸にひんむかれた。

 待ってパンツはどこ行ったの。


「クセになってるんですじゃ、中身を盗むの」


「ムラサキババアさん唐突に紛れ込んでる。というかやっぱり全然善良な怪異じゃなくない?」


「ふざけるななのムラサキババア、ヌクトのものはあたしのものなの」


「僕のものだよ?」


「おやおやメリメリ〜ぬっくんのパンツ欲しいんじゃんね? ポーカーフェイスの下はムッツリじゃんね〜」


「そ、そういう意味じゃないの。あたしはただ、あたし以外がヌクトにちょっかいかけるのが気に食わないだけで」


「なるほど、ヌクト様の意識はメリー嬢が独り占めをしたいということでございますね。独占欲ははたから見れば微笑ましいものでごさいます、温かく見守らせていただきましょう」


「うるさいのそんなんじゃないのその口を閉じろなの」


「「「「目にシャンプー「がーッ!?」「じゃんねー!?」「でございますねぇ!?」「ですじゃ〜!?」


 目の泡を(飲む用のペットボトルの水で)洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。

 他のみんなは……全員いる。

 あれっメリーさんだけどこ行った?


「メリメリあそこにいるじゃんねー。壁の額縁」


「あたしメリーさん。今全身で芸術を感じてるのむぎゅう」


「絵のなかにいる」


 壁にかけられたモナリザの絵が爆笑の表情をしていて、その口の中にメリーさんが無表情のまま埋まっていた。

 なんで卓球場にモナリザがあるんだろう。


「せっかくだしぬっくん、額縁のメリメリを景品にしてこのまま卓球を続けるじゃんね!

 勝った人がメリメリを独占できるんじゃんね!」


「ふざけるななの勝手にあたしを景品にしてるんじゃないのむぎゅう」


「まだ全然卓球を堪能できてございません。このまま継続したい所存でございます」


「おれもまだ一ポイントしか審判してないから、もっと見ていたいかぁ」


「人が足りない分はわしが入れますですじゃ。この歳ですじゃがまだまだ体は動きますですじゃ」


「じゃあ、ムラサキババアさんが僕のペアで。あとパンツ返して」


「ふざけるななのヌクトあたしというものがありながら他の女とペア組むなんて最低最悪のサルヤローなのあっちょっと待ってかじられてるのこれ都市伝説の人食いモナリザ的なヤツなのむぎゅう」


 その後、僕たちは普通に卓球を続けて、無表情のまま怒り心頭のメリーさん(モナリザの唾液まみれ)にシャンプーを食らった。






「秘技ですじゃ! 宇宙的神秘パワー魔球アタックですじゃー!」


「まぶしいじゃんねー!」


「銀色スーツで光をチラチラ反射させて目くらまし、めちゃくちゃせこい技だ」

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