第39話 都市伝説のメリーさん、露天風呂に入る。

「あたしメリーさん。今露天風呂のゴバババババ」


滝行たきぎょうかな?」


 メリーさんを追って露天風呂に出ると、メリーさんは露天風呂に突っ込んでって、併設された打たせ湯のところにドンピシャで飛び込んで、お湯に沈んだ。




「ひゃー! ひゃーひゃーひゃーじゃんねー! ながめがいいじゃんねー!」


「コックリさん、柵から乗り出すと危ないよ? 外から見えちゃうし」


「島でございますから、見るような人間もいないのではございませんか? そもそも服を着てございます」


「ごもっともでしかない」


 露天風呂。

 石で組んだ浴槽と打たせ湯用の滝、簡単に囲った木の柵。青い空。

 柵から外を見渡せば、すっきりと広がる青々とした海。

 確かにいいながめだ。波間にちらちら海坊主とか見えるけど。


「ヌクト、ぱおん様をぶらぶらさせて柵から乗り出してみっともないの」


「お風呂にいて全裸の僕に当たりが強いの納得いかない」


「お風呂の中だろうと誰彼構わずぱおん様を見せるもんじゃないの」


「誰彼構わずって……え、もしかして僕ら以外にも人いた?」


 浴槽内のメリーさんが、よそに向けて指をさした。

 そちらに目を向けると、すみっこでお湯に浸かりながら、顔を赤くしてこちらをガン見している、ブラウスを着た女性。上半身だけの。


「はぅわ!? 男の人のぱおん様をガン見してるふしだらな女だと思われちゃう!? わたしそういうのじゃないですからぁ!

 というかなんでメリーちゃんたちここにいるのぉ!? 知り合いにお風呂入ってるとこ見られるの恥ずかしいよぉ〜!!」


「あ、テケテケさん」


 来る途中の道で見かけた、都市伝説のテケテケさん。

 テケテケさんははわはわと声を漏らした。


「まさかメリーちゃんたちとおんなじ宿だったなんて、どうしようどうしよう! 道中で遭遇して泊まる宿も同じで、交差する運命って感じで、あわわわ、こんな偶然、どうしようどうしようどうしよう!」


「同じ方面に走ってたら同じ目的地にもなるの」


「ここ島だから他に行くとこもないだろうしねー」


 テケテケさんは僕に目を向けて、はたと気づいたみたいな顔をして、胴体の断面を隠そうとしてる。

 恥ずかしがるポイントはそこなんだね。


「はぅあぅあぅ、お友達とそのただならぬ関係の男の人と一緒の宿になっちゃったうえに、一緒のお風呂に入ってるとこに出くわしちゃうなんて……!

 はわわわどうしようぅ、わたしの妄想力がテケテケしちゃうよぉ〜!」


「ただならぬ関係ではないの」


「ねえコックリさん、もしかしてここ露天風呂だけ混浴だった?」


「あっちで女湯とつながってるじゃんねー」


 テケテケさんは赤面したまま、口が回るのが止まらない。


「メリーちゃんが男の人と温泉宿で混浴……! このあとはめくるめくこんにゃく……!

 はわわわわ、これだから下半身がある人は! 下半身がある人は!」


「テケテケさんにとって下半身ってそういう使い道しかないの?」


 テケテケさん、目をぐるぐるさせて、頭が沸騰しそうなほど赤面してる。


「めくるめく下半身のラブトラベル……! 何をめくるのめくらないの!?

 あっあっ妄想力で興奮しすぎてあふれ出るものが止まらないゴボァァ」


「鼻血噴いたー!?」


 テケテケさんの鼻からは真っ赤なアーチがきれいにかかり、湯船に落ちてお湯を赤く染め上げた。公衆浴場でやめて。


「はぅあぅ、こんなに鼻血で汚したらみなさんにご迷惑をおかけしちゃう押さえなきゃゴボゴボゴボ」


「両手で鼻を押さえて体を支えられなくなって沈んでった」


 水面にうつぶせで浮かぶ、上半身だけの女性。赤く染まる湯。

 絵面だけ見たら事件現場だこれ。


「これどうしといたらいい?」


「ほっとけばいいの。怪異なんだから水にうつぶせで浮かべといたくらいで死んだりしないの」


「まあメリーさんもさんざん水没しまくってるけどケロッとしてるもんね」


「ぷくーなの。人の失敗をあげつらうんじゃないの」


 メリーさんは無表情をふくらませて、湯船のお湯をぱちゃぱちゃ飛ばしてきた。

 失敗と感じて恥じ入る程度には気にしてるんだね。あれだけ繰り返してるけど。


「というか寒くなってきたし、僕もお風呂に浸かろう。赤く染まってるけど」


「変態ヌクトに浸からせるお湯はないの」


「僕別に変態なことしてなくない? お風呂に来ててフルチンなことを変態だなんて言われたらどうしようもないよ」


 メリーさんの横でお湯に浸かる。

 露天風呂特有の、上は涼しくてお風呂に浸かった体はあったかい、このコントラストが気持ちいいね。


「ヌクト、そんなにくっつくんじゃないの。お風呂は広いんだからもっと広く使うの」


「そうは言ってもメリーさん、テケテケさんの鼻血が流れてきてて……気分的に触れたくないし、安全地帯に避難しようと思ったらこうやってくっつくしかなくて」


 打たせ湯とかの水流で鼻血汚染からまぬがれている区画に、メリーさんと押し込められるような形になる。

 くっついているメリーさん、無表情が気持ち赤くなってる気がする。

 そしてうつぶせで浮いていたテケテケさん、顔を持ち上げてこちらをじっと見ている。


「ハァハァメリーちゃんと男の人が全裸混浴で密着してるハァハァハァ」


「あたしは全裸じゃないの」


「混浴にわざわざ全裸っていう枕言葉が必要になるの、携帯電話が普及してからの固定電話みたいな言葉の歴史を感じる」


 テケテケさんはぎらぎらと血走った目でこちらを見ている。一番血走ってるのは鼻だけど。


「ハァハァわたし今すごくいけないものを見てる気がする、見ちゃいけないのに目が離せなくて下半身がない分だけ血が上の方に集まってハァハァハァハァブフゥーッ!!」


「その鼻血スプラッシュを相殺するシャンプースプラッシュなの」


「「目にシャンプー「がーッ!?」「だよぅ〜!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。テケテケさんも。

 あれ、どこ行った?


「メリメリはテケちんをつまみ出しに行ったじゃんねー」


「あ、そう……テケテケでテケちんなんだ」


「我々も上がりましょうか。ゲームコーナーや卓球場もあるようですし、満喫させていただきましょう」


 そういうわけで、みんなで上がることにした。

 温泉旅館、まだまだ見どころはいっぱいある。楽しみだね。






「ところでなんで僕シャンプー食らったの?」


「ワープするのに服が透ける瞬間を見られたくなかったのでございましょう」


「今さらじゃんねー」

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