第37話 都市伝説のメリーさん、チェックインする。

「あたしメリーさん。今温泉施設の玄関にゴボゴボゴボ」


「玄関のところに飲む用の源泉が出てるとこあるよねー」


「施設のフリーWi-Fiにつないで、昼間だけどこんこんこんばんコックリさーん!」


「インターネット回線とこの場の妖気の力を借りて、わたくしめも推参でございます」


 温泉施設に着いたとたん、メリーさんは待ちきれずに飛び出して、玄関前にいている源泉の水飲み場に飛び込んで、沈んだ。

 コックリさんとあかなめさんも現地集合した。




「いらっしゃいませですじゃ。女将の『ムラサキババア』ですじゃ」


「いや銀ッ!? 髪はオールパープルのもさもさパーマだけどボディーが全身銀ッ!?

 あと吊り目のアーモンド型サングラス!?」


 温泉施設の玄関をくぐると、出迎えてくれたのは女将というイメージからかけ離れた人物だった。

 全身銀色のボディースーツを着た紫パーマ小柄おばあちゃん(サングラス装備)。


「むーらんは一時期宇宙人として活動してたじゃんね! そのときの衣装まだ残してたんじゃんね!」


「そうですじゃ。ムラサキババアとしてブイブイいわせてたころは人様の肝臓を奪う都市伝説として知られてたのですじゃが、このご時世コンプラがきつくて家畜の肝臓にしましたのですじゃ」


「あっ『宇宙人グレイ』!? ムラサキババアの肝臓抜き取りとキャトルミューティレーションって同じ怪異だったの!?」


「クセになってるんですじゃ、肝臓盗むの」


「コックリ、こいつ全然善良な怪異じゃないの」


「趣味と実益を兼ねるのですじゃ。当旅館のお食事は和牛焼肉フルコース料理なのですじゃ」


「それ正規の手段で仕入れてる? キャトった牛を提供してない?」


「仕入れはちゃんとしたルートですじゃ。誓ってウソはついてませんですじゃ」


「ベベロベロベロ、これはウソはついてない味でございますね」


「あかの味でウソの判別するのやめよう? 絵面が強烈すぎるよ?」


 銀色スーツ紫ヘッドおばあちゃんをなめ回すイケメン執事。


「ひとまずチェックインをお願いしますですじゃ。このわら人形に髪の毛を入れて五寸釘を」


「そんなまがまがしいやり方じゃないとダメ? 普通にサインするとか」


「それもできますですじゃ。こちらの映像が立体的に飛び出す3Dホログラムタブレットに電子署名を」


「文明レベルが極端」


「昔の小道具の再利用ですじゃ。未確認飛行物体を乗り回してたころの」


「あーしがやるじゃんね! 十円玉を置いてーの、動け動けーじゃんね!」


「コックリさんが思い出したようにコックリさん要素を強調してる」


 ともかくチェックインを済ませて、部屋に案内される。

 内装は昔ながらの温泉旅館って感じ。新規オープンだから新しいんだろうけど。


「他のお客さんはいないのかな……あ、いた」


「ゴスロリなの」


 歩いていく途中、自販機コーナーのゴミ箱の横に、真っ黒なゴスロリ服の人影が立っていた。

 少女、に見える。黒い口紅。髪の毛と目が、服とは対照的に太陽みたいな金色。

 通り過ぎざま、その人はその輝く金色の目で僕たちを追って、口を開いた。


「ずいぶん珍しい組み合わせかぁ。これだけいろんな怪異と人間が一緒にいるの、おれも初めて見るかぁ」


 男性の声だった。


「かぁ、かぁ。仲がいいのはいいことかぁ。いろんな怪異が仲良くしてるのは、おれはうれしいかぁ? うん。おれはうれしいと思うかぁ」


 ふらりと歩き出して、僕たちとは逆方向に去っていった。

 なんとなく目で追ってから、メリーさんに尋ねた。


「今のって人間? なんかの怪異?」


「怪異に見えるの。知らないやつだから、正体は分からないの」


 それからメリーさんは、僕にじとりとした無表情を向けてきた。


「ヌクト。見た目のいい怪異だからって、見とれて目で追って人となりを知りたがるなんて分かりやすく最低なの。スケコマシのサルヤローなの」


「違うよ? いや目は引いたけどそういう対象としてどうこうって話じゃないし、分かんないことがあったら知ってそうな人に聞いてみようってだけで」


「メリメリ、嫉妬じゃんねー」


「なるほど、こうやって大衆施設におもむくと、普段の閉鎖的な交流とは違った他者をまじえた新鮮な反応を目にすることができるのでございますね」


「みんな調子に乗るななの」


「「「目にシャンプー」「がーッ!?」「じゃんねー!?」「でございますねぇ!?」


「お客様、廊下でのシャンプーの使用はお控えくださいですじゃ」


 目の泡を洗い流……風呂場じゃないからお湯がないじゃん洗い流せない。


「致し方ありませんベベロベロベロ」


「背に腹は代えられないけどもうちょっとマシな洗い方がよかったなー」


 目の泡をなめ落とされると、メリーさんは一人でずんずん進んでいた。歩幅が小さいからすぐ追いつくけど。

 追いついたのに気づかないのか、メリーさんはぶつぶつ一人で言い続けてる。


「やっぱりヌクトはかわいい方がいいの……あたしはあんなにかわいくないの……でも見た目じゃなくて内面……それも自信ないの……」


「かわいい」


「かわいいじゃんねー」


「かわいいでございますねぇ」


「みんな黙れなの」


「「「目にシャンプー」「がーッ!?」「じゃんねー!?」「でございますねぇ!?」


「お客様〜ですじゃ」


 そんなこんなで部屋について、荷物を置いた。

 楽しい温泉旅行の、始まり始まり。

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