第35話 都市伝説のメリーさん、ティーパーティーを計画する。

「あたしメリーさん。今あなたのうしゴボゴボゴボ」


「お゛お゛お゛ーんメリメリちょーかわいいじゃんねー尊いじゃんねー尊すぎて涙と鼻水が止まらないじゃんねーお゛お゛お゛ーん」


「やめてあげよう? メリーさんデロデロのドロドロになってるよ?」


 メリーさんからの電話に出ると、メリーさんは僕の背後できちんと風呂イスに立って沈没を回避して、その後ろに来たコックリさんの大量の涙と鼻水を浴びて、おぼれた。




「メイド服のメリメリかわいすぎるけど、おそろのJKルックじゃなくなったのは悲しいから複雑じゃんねーおろろーん」


「もう泣くのやめてあげよう? メリーさんが涙と鼻水の打たせ湯状態だよ?」


 現在、湯船の中に僕とメリーさんとコックリさん。

 メリーさん、涙と鼻水の滝に打たれて無表情の「無」っぷりが極まってる。なんかもうあきらめの境地って感じ。

 で、湯船の外の洗い場にあかなめさん。


「メリー嬢、新しい装いがよく似合っておいででございますよ。わたくしめはその姿をさかなに外野から楽しませていただきましょうベベロベロベロ」


「あかなめさんは見えるところであかをなめるのやめてくれないかなぁ!? いや見てなければいいわけでもないけどさぁ!?」


「メイド服になったあたしは紅茶のサーブもお手のものなの」


「それは紅茶ではなくシャンプーでございますねぇ!?」


 無から復帰したメリーさんは、高いところから紅茶を注ぐみたいに華麗にシャンプーを放出して、あかなめさんの目に寸分たがわず直撃させた。

 あかなめさんは洗い場にうずくまって、目を押さえて悶絶した。

 コックリさんは涙と鼻水を洗い流して(湯船の中でじゃばじゃばやらないで? 洗い落としたのが全部湯船に入ってるよ?)、にっぱと笑ってメリーさんに抱きついた。


「あーしもメリメリのサーブした紅茶飲みたいじゃんねー! ティーパーティーしたいじゃんねー!」


「ティーパーティーやりたいならお菓子買ってこいなの」


「山盛りのマカロンがいいじゃんねー! ケーキスタンド持ってくるじゃんねー!」


「お風呂場のどこに置くっていうの。常識的に考えろっていうの」


「メリーさんの数々の行動を踏まえたうえで聞く『常識的に考えろ』発言、これまでの何より怪奇現象に感じるなぁー」


「じゃー大きいお風呂に行くじゃんね! 大きいお風呂でお盆浮かべてティーパーティーじゃんねー!」


「わざわざお風呂にこだわる意味ある?」


「もちろんでございますよヌクト様」


 あかなめさんが復帰して起き上がって話に加わった。


「先日も申し上げました通り、コックリ嬢とわたくしめはメリー嬢の通信回線と風呂場という妖気を溜め込む場があってこそこうして集結できるのでございます。

 もしも常識的にダイニングルームでティーパーティーを行おうと思えば、わたくしめのような非常識の存在は参加することなどとうてい叶わないのでございます」


「まあ、あかなめさんは非常識だよね。いろんな意味で」


「当然のようにティーパーティーに参加する気なの。断られるとか微塵も考えてないの」


 みんなのジト目にめげることもなく、あかなめさんはあごに人差し指を当てて、思案するように目線を斜め下に落とした。


「そうでごさいますね、たとえば温泉施設のような場所でございますれば、施設全体が水場としての妖気をはらみ、浴場以外の部屋でも集合できますでしょう」


「温泉行きたいじゃんねー! メリメリどっかいいトコ連れてってじゃんねー!」


「ふざけんななのついてくんななの。温泉はあたしの自由で孤独な楽しみなの。怪異を受け入れてくれる温泉施設なんてそうそうあるもんじゃないの」


「メリーさん今までどうやって温泉行ってたの? てかスーパー銭湯でふつーに怪異が歩いてたよね?」


 言いつつ、ふと思い出したことがあった。

 スマホを手に取り、メールの画面を開く。


「そういえばこれ、メールで来てたんだけどどうかな?」


 みんながスマホをのぞき込んだ。

 そこに開いたメールに書かれた内容は、こんな感じ。


――――――


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――――――


「思いっきり都市伝説がらみなの」


「あ、やっぱり? 送信元のアドレスも文字化けだらけだったしそうだろなと思ったんだけど」


 あかなめさんが、吟味するように口を開いた。


「なるほど、選択肢としてはアリでございますね。

 施設自体が怪異ならわたくしめどもの行動もなんの支障もございませんし、とことん羽目を外すことも可能でございましょう」


「むーらんだったらあーし知ってるじゃんね! 悪い都市伝説じゃないじゃんね!」


「ムラサキババアでむーらんなんだ」


「え、待つの、これ行くの? 行く流れなの?」


「僕も温泉行きたいなーとは思ってたし、安全そうなら都市伝説がらみの方がかえっていいかなって」


 メリーさんが無表情のまま、気持ちジトッとした目を向けてきた。


「ヌクト……あまりにも都市伝説に無警戒なの。そんなんだから天然タラシのサルヤローになるの」


「え、僕タラシなの?」


 メリーさんの言葉に対して、コックリさんとあかなめさんがにまにまとした。


「タラされてるのはメリメリだけじゃんねー」


「メリー嬢は、ヌクト様の怪異を無警戒に受け入れる懐の大きさに惚れ込んでいるのでございますね」


「うるさいの曲解するななの誰がヌクトに惚れてるっていうの」


「「「目にシャンプー「がーッ!?」「じゃんねー!?」「でございますねぇ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんとあかなめさんも。

 そしてスマホには、メッセージが一通。メリーさんから。


『仕方ないから、みんなで温泉に行ってやるの』

『別にあたしは楽しみじゃないけど、みんな楽しみにしてそうだから仕方なくなの』


「ふふっ」


 つい微笑ましくなる。

 そして成立した旅行の予定に、気持ちがうきうきする。

 みんなで行く温泉旅行、きっと楽しいだろうな。

 予約取って、荷物を準備して……今からもう、わくわくしている。






「予約フォームの大人子供の選択、メリーさんってどっちにすればいいんだろう」


「あたしは立派なレディーなの子供扱いするななの」


「目にシャンプーがーッ!?」


——————


・作者より


次話より「よん風呂め」こと「イルカ島温泉編」となります。

いつもと違う場所で、いつも通りの非日常な日常を過ごすメリーさんたちをお楽しみください。

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