第34話 都市伝説のメリーさん、ご奉仕スタイルになる。

「あたしメリーさん。今コックリのゴボゴボゴボ」


「あっ今日はコックリさんたち来てないよ」


 メリーさんからの電話に出ると、コックリさんたちがいると思っていたメリーさんは無防備に僕の後ろに現れて、無防備に湯船に沈んだ。

 来るな来るなって言うわりに、もうみんないるのが当然みたいになってるんだね。かわいいね。




「さて今日は他のみんなを呼ばずに二人きりなわけだけど」


「いいい今さら二人きりに動揺とかししししないのあたしはクールで知的な怪異なののののゴボゴボ」


 二人きりと聞いたメリーさんは分かりやすく動揺して、立っていた風呂イスから足を滑らせて湯船に沈んだ。かわいい。

 いそいそとイスの上に戻ってきたメリーさんは、ブレザーのすそを直したりこまごまと動いている。かわいい。

 なんか前にもこんなことあったよね。


「……で、今日はなんで二人きりなの」


「メリーさんに渡したいものがあって」


「まままままさか給料三か月分!? ダメなのそういうのはまだ早いの心の準備ができてないの」


「思いっきりデジャヴなんだけど逆にメリーさん指輪を期待してる?」


「これっぽっちも期待してないのそんなわけないのあたしはヌクトのことなんとも思ってないのあっでも本当にくれるときが来るならあたしは覚悟を決めてしかるべき対応をあっでも想像したら緊張して吐きそうなのおぼろろろ」


「人形のメリーさんの胃袋に嘔吐すべきサムシングがあるの? いやさんざんおまんじゅうとか食べてるけど。

 というかなんか紫色のデュルンデュルンしたエクトプラズム的なのが出てきた」


 たましい的なサムシングだと困るから風呂桶ですくってメリーさんの口に戻して(メリーさん「ゴボゴボゴボ」)、気を取り直して風呂場の外から紙袋を持ってきて、メリーさんに差し出した。


「はいメリーさん、新しい服だよ」


「まあそういう流れだろうとは思ってたの。前にブレザーもらったときとおんなじなの」


 メリーさんは中身を取り出して、広げてみた。

 用意した服は。


「……メイド服なの」


「うん。メリーさん、掃除のときとか料理のときとかぼろぼろの三角巾巻いてたからさ。ちょうど作業着になるからいいと思って。

 あとはメリーさんに似合いそうだと思ってね」


 黒を基調としたロングスカートのワンピース、それにフリルのついた白いエプロン。

 フリルつきカチューシャも添えて、現代日本でイメージされる定番メイド服のフルセット。

 ちなみに湯船で広げたので、ロングスカートも広げたときに落ちたカチューシャもどっぷりと水没してる。濡れてもいいやつだからいいけどね。


 それを見る、メリーさんの反応は。

 しばらく服をながめて、それから顔を上げて、無表情だけど気持ちジトっとした目を向けてきた。


「もしかしなくてもヌクト、メイド服にしたのって、あかなめの服装を参考にしたの」


「あ、バレた? うん、執事服見てて連想してさ、そういえばメイド服ならメリーさんに似合うかなーって」


「まあ、あたしのこと考えてくれるのは悪い気はしないの。

 ……ただ」


 メリーさん、視線をふいと落としたかと思うと、無表情を気持ち赤くして、ぷるぷるとふるえている。

 その視線の先には、服を広げたときに落ちてぷかぷかと浮かぶ、白くてもこもこフリフリとした布。

 正式名称、ドロワーズ。通称、かぼちゃパンツ。

 まあつまり、下着である。パンツである。


 ぷるぷるとふるえるメリーさんに、僕は冷静に語った。


「違うんだメリーさん、別にやましい気持ちがあるわけじゃないんだ。

 ただメイド服に合わせるなら前にあげた普通のパンツよりも、そういう下着の方がしっくり来ると思うし下着の替えもあった方がいいと思って」


「下着のことまで考えられるのはいい気がしないのスカポンタンのサルヤロー」


「目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流すと、メリーさんはメイド服に着替え終わっていた。さすがの早着替え。


「……お帰りなさいませ、ご主人様。なの」


 ロングスカートを手でつまんで軽く持ち上げ、ひざを少し曲げるあいさつ、いわゆるカーテシーの動作をした。

 うん、さまになってる。ブレザーもよかったけど、メリーさん西洋人形だしこういう格好するとばっちり決まるね。

 湯船の中でやってるから全身ずぶ濡れだけど。まあとりあえず。


「萌え萌えきゅんです」


「真顔で言われてもどんな感情か分からないの」


 無表情で言われた。

 普通にかわいいと思ってるよ。ワードチョイスは義務感だけど。


「今度オムライスでも作ってやるの」


「人間が食べられるものにしてね?」


「あたしをなめないでほしいの。お米を炊くところからばっちりこなしてみせるの」


「追い焚きボタンを指さしながら言う時点でもうダメなんだよなぁ〜」


 まあでも、気持ちのこもったものが食べられるならうれしいよね。


「オムライス作るならメリーさん、ケチャップでハート描いたりするの? 愛のおまじないかけたりとかさ」


「う……ヌクトがやれっていうなら、やってやらないことはないの。クールにこなしてみせるの」


「メリーさんが愛を込めるとこ見たいなー。オムライスなしでいいからさ、今やってみてよ、愛のおまじない」


「え、え? 今やるの」


「なんだっけ、萌え萌えビーム、みたいなやつ。メリーさんがやってるとこ見たいなー」


「え、待つの、え、ホントにやる流れなの」


「見たいなー見たいなーメリーさんの萌え萌えビームが見たいなー」


「え、え、ちょっと、待つの、え、待ってホントに、え」


 僕があおり続けて、メリーさんは無表情を赤くしてぷるぷるふるえて、そして。


「ヌクトの眼球に届け愛の直撃萌え萌えビームなの」


「刺激的な愛が目にしみるなぁ〜目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。


「……まあ、ツンデレムーブだと思えば、まさしく愛のビームってことになるね」


 普段からメリーさんの愛を受けまくってる僕は、幸せ者だなぁ〜。ってことにしておこう。






「あたしはツンデレじゃないって言ってるの」


「そうだねメリーさんはデレてないんだったね目にシャンプーがーッ!?」

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