第33話 都市伝説のメリーさん、〇〇デレ談義をされる。
「あたしメリーさん。今浴槽の壁際のヘリに立って」ズルッ「ゴボゴボゴボ」
「ごめんそこお絵描きシート貼ったんだ」
メリーさんからの電話に出ると、メリーさんは浴槽の壁際のヘリに立って忍者みたいに壁にへばりついて、そこには水で濡らして壁に貼りつくタイプのお絵描きシートが貼ってあって、メリーさんがもたれかかったことではがれて滑り落ちて、メリーさんはもろとも風呂に沈んだ。
「ふんふふふーんお絵描き楽しいじゃんねー♪」
「濡れた場所にも描くことができて、こすると簡単に消えるのでございますね。入浴が楽しくなる玩具でございます」
湯船に浸かる、いつものメンバー。
壁に貼り直したお絵描きシートに、コックリさんとあかなめさんがお絵描きをして楽しんでいる。
メリーさんは湯船に沈めた風呂イスに立って、無表情な顔をむすりとさせた。
「なんでお絵描きシートなんてあるの」
「通販サイトで見つけて買った」
「買った手段じゃなくて、理由を聞いてるの」
メリーさんの疑問に、コックリさんがふふーんと鼻を鳴らした。
「それはこれを話し合うためじゃんね! とうっ!」
コックリさんが強い筆圧で文字を書く。「メリメリ 〇〇デレ」。
「メリメリはツンデレなのか!? クーデレなのか!? ヤンデレなのか!? ここで決めるじゃんねー!」
「なんでそんなことするの……」
無表情をげんなりさせるメリーさんを尻目に、僕たちはお絵描きシートにいろいろ文字を書いていった。
「僕はやっぱりメリーさんは古典的なツンデレかなあと思うんだよね。
好意があるのに隠そうとしてツンツンした態度取るのがかえって分かりやすくて微笑ましく感じるよね」
「メリメリはクーデレじゃんね! あーしはこれ推しじゃんね!
表情全然変わらなくてクールぶってるのに好き好きテンションがダダ漏れなのがちょーキュートじゃんね!
あと表情が変わんないからこそ着せ替えとかして印象変えたりするとキュートさがバリバリ強調されるじゃんね!」
「わたくしめはヤンデレという概念が非常に興味深いと感じるのでございます。
愛の重さゆえに深い憎悪をあふれさせ、愛する者を加害すらしてしまうさまは一種の美しさをもはらむものでございますし、その危うい愛の表出は妖怪の身として
ツンデレ、クーデレ、ヤンデレ。あとかわいい。
そんな文字が、お絵描きシートに書かれていく。
そしてシートが埋まったあたりで、コックリさんがメリーさんに顔を向けた。
「メリメリはどれがいいじゃんね!?」
「全員ぶっ飛ばされたいの」
「目にシャンプーじゃんねー!?」
コックリさんはシャンプーを食らって悶絶して、僕とあかなめさんの間であおむけに水没してぶくぶくとあぶくを立てた。
メリーさんはコックリさんの胸元に立って、僕たちに怒りの無表情を向けた。
「人のこと好き勝手言ってくれてるんじゃないの。あたしはツンデレでもクーデレでもヤンデレでもないの。
そもそもあたし、一度もヌクトにデレたことなんてないの。大前提が大間違いなの」
「えー。ずっと仲良くやってきて少しはメリーさんに好かれたかなと思ったのに、全然そんな気がないなんて僕さみしいなー」
わざとらしくすねた態度を取ってみせた。
そうしたらメリーさん、無表情だけど分かりやすくうろたえた様子になった。
「ち、違うの。ヌクトのことは大切に思ってるの。一番大切な人なの。
けど別にそれは好きってことじゃ、えっと、つまり人と人との関係性は多種多様なの、そしてあたしはクールで知的な都市伝説だから好意を開けっぴろげにしたりしないの、違うの好意っていうのは言葉のあやで、あの」
メリーさん、めっちゃしどろもどろになってる。
それを見てるあかなめさん、行列二時間待った後の最高級スイーツでも食べたみたいなつやっつやの笑顔だ。
水中のコックリさんもニッコニコ。コックリさん水中で聞こえてる? 息できてる?
「つまりその、嫌いじゃないの、でも好きじゃ、違うの、好き、違うの、これはつまりそのあの」
そしてメリーさん、一人でずーっとしどろもどろになってる。
無表情の顔がどんどん真っ赤になってくよ。追い焚き押してないのにお風呂があったまりそうだよ。
そしてこの状態になったら、次のメリーさんの行動は。
「あたしは絶対絶対にデレてないのー!」
「まぁこうなるよね目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんとあかなめさんも。
残るのはただ、壁に貼りついたお絵描きシートと、専用のペンだけ。
「……やっぱメリーさんはツンデレかなー。あとかわいい」
お絵描きシートの「ツンデレ」「かわいい」の文字に、大きくマルを描いてみた。
「デレてないって言ってるの」
「はいごめんなさいメリーさんはクールで知的な都市伝説です目にシャンプーがーッ!?」
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