第29話 都市伝説のメリーさん、収入の話をする。

「こんこんこんばんコックリさーん! 今日はハブられず開幕登場! コックリさん系配信者の重縁指じゅうえんざしコックリじゃんねー!」


「ごきげんようヌクト様。妖怪のあかなめでございます」


「悪霊退散なの」


「目にシャンプーでございますねぇ!?」


「のっけからしっちゃかめっちゃか」


 メリーさんからの電話に出ると、背後にコックリさんが現れて、排水口からヌルョンとあかなめさんが現れて、コックリさんの頭に乗っかっていたメリーさんがあかなめさんにシャンプーを発射して、あかなめさんは悶絶して洗い場に倒れた。




「わたくしめの扱いだけ、どうにもひどいように感じるのでございますが」


「単純に変態だし気色悪いしお呼びじゃないの。入ってくるななの」


 あかなめさん、アウェーな状況にもめげずに湯船に入ってくる。執事服のまま。

 メリーさんは風呂イスに立って、ローファーでげしげしとキックしてる。


「ゴボゴボゴボ」


「あ、キックの反動でバランス崩して湯船に沈んだ」


 引き上げてひざの上に置いてあげる。

 メリーさんはずっと、敵意のある無表情をあかなめさんに向けていた。


「あかなめは帰れなの。不要なのお邪魔なのヌクトだけいればいいの」


「まーまーメリメリー、そんなに邪険にしたらあかにゃんがかわいそうじゃんねー。

 もうちょっと広い心を持って受け入れてあげてもいいじゃんねー」


「コックリ、なんであかなめの肩を持つの。ワイロでも渡されたの」


 メリーさんがそう言うと、コックリさんはぴしりと固まって、ギギギと目をそらした。


「べつに、そんなことないじゃんねー。

 けっして、こないだはいしんでたくさんなげせんしてくれたとか、そんなじじつはないじゃんねー」


「ワイロ受け取ってるの」


 メリーさんはコックリさんにげしげしキックしにいった。

 コックリさんは両手をグーにしてぶんぶん振って、弁明した。


「だって、だってお金くれるの切実にありがたいじゃんね!

 配信がウケることもまあまああるけど、まだまだあーしは赤貧貧弱配信者なんじゃんね!

 メリメリもあーしがかせげてないと、おこづかいあげれなくて困るじゃんね!」


「コックリに頼らなくても、いざとなったら自分でかせいでみせるの。

 自販機の下に潜ったりとかするの」


 かせぎ方がせこすぎる。


「けどあかなめさん、投げ銭するほどのお金ってどうやってかせいでるの?

 妖怪ってお金かせぐ手段ってあるものなの?」


「そうでございますね、妖怪全般、という話であれば範囲が広すぎてわたくしめも分かりかねるのでございますが、わたくしめ個人といたしましては収入を得るのは容易なのでございます」


「あー、もしかしてお風呂掃除のバイトとか?」


「いえ、そういうのではなく」


 あかなめさんは自分のほおに手を当てて、しれっとのたまった。


「わたくしめ、顔がよくてございますから」


「ヌクト、こいつ殴っていいと思うの」


「さすがに僕もちょっとだけ殴りたくなったなー」


 あかなめさんはそんな僕たちの殺気も意に介さず、メリーさんを指さして言った。


「軽口を抜きにしてもメリー嬢、ここにいる中でもっとも自力で収入を得る能力にとぼしいのは、貴女なのでございますよ」


「え……? は? なの」


 急な話をふられて、メリーさんぽかんとしてる。無表情だけど。

 あかなめさんは真面目な表情をして話を続けた。


「コックリ嬢は配信者として自力で収入を得ております。わたくしめも手段はいろいろと。

 人間の社会人であるヌクト様は言わずもがなでございます。

 しかしメリー嬢、あなたの現在の収入の当てはコックリ嬢の配信手伝い、その謝礼金でございます。

 それもコックリ嬢は別に独力で配信ができないわけではなく、メリー嬢におこづかいを渡す口実に手伝ってもらっているにすぎないというのが現状でございます」


「あかにゃん、別にあーしとしても手伝ってもらった方が楽だしそんなあーしがメリメリにあわれみで仕事をあげてるみたいな言い方……」


 コックリさんが言いかけると、あかなめさんはコックリさんの狐耳に口を近づけて、何かひそひそ話をした。

 コックリさんはぴんと耳を立てて、にんまり笑って、それからメリーさんにあおるように言った。


「あ、あーあーあーあーそーじゃんねー。あーしがいないとメリメリまったく自活できないじゃんねー。

 もしあーしがお手伝いお願いしなくなったら、メリメリ収入の当てがなくなって干からびちゃうじゃんねー」


「そ、そんなことないの。

 あたしは人形だから、お金がないくらいで干からびないの」


「収入の当てがなくなることは否定しないんだ」


 コックリさんはにまにまとして、メリーさんに顔を近づけた。


「つ・ま・りー。

 メリメリは今のうちに、やしなってくれるいい人をつかまえておくべきじゃんねー!」


「あっそういう方向に持ってくためのあおりなんだ」


 あおられて、メリーさんは無表情のまま顔をちょっと赤くした。


「ふざっ、ふざけんじゃないの、誰がそんな、養ってもらうためなんて失礼な理由でヌクトをつかまえたりなんかしないの」


「おんやおんや〜? あーしはぬっくんだなんてひと言も言ってないじゃんね〜?」


「んなっ……違うの、あたしはただ身近な男がヌクトしかいないからヌクトって言っただけで、別に意識してるとかそんなんじゃないの」


「わたくしめも男でございますが、それでもヌクト様しか見えていなかったのでございましょうね」


 あかなめさんもあおりに参戦した。

 メリーさんは無表情のまま顔を赤くして、ぷるぷるとふるえた。

 あのー二人とも、あおるの楽しいのは分かるけど、メリーさんこの状態になったら。


「うるさいうるさいうるさいのみんな黙るのふざけるななのー!」


「僕も巻き添えで目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんとあかなめさんも。

 食らう前に退散したのか、食らって悶絶して退散したのか、どっちだろうね。どっちでもいいや。


「僕もたまには、メリーさんにおこづかいあげようかなあ」


 まあ服をプレゼントしたりはしてるけど。

 ちょくちょくおみやげももらってるし、たまにはお金を渡してもバチは当たらないよね。







『投げ銭するならあーしにくれじゃんねー!』


「コックリさん切実」


 そこまで不人気でもなさそうなんだけどね、コックリさん。

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