第28話 都市伝説のメリーさん、誤飲する。
「あたしメリーさん。これは久々に旅行のおみやげの温泉まんじゅうなの。たっぷり召し上がるがいいの」
「ゴボゴボゴボ」
メリーさんからの電話に出ると、山のように大量の温泉まんじゅうが現れて僕の頭上に降ってきて、押しつぶされて風呂に沈んだ。僕が。
「ヌクトはコックリのやわらかおっぱいに鼻の下を伸ばすおっぱい星人サルヤローなの。そんなにやわらかいのがいいならやわらかまんじゅうでも食べてればいいの」もっもっもっ
「いやあれだけ押しつけられたら男として否が応でも反応するというか、メリーさん温泉まんじゅうのドカ食いっぷりがリスみたいになってる」
湯船に浸かる、僕とメリーさん。そしてお湯を吸ってデロデロにやわらかくなった温泉まんじゅうズ。
メリーさんはいつもの風呂イスに乗った状態で、温泉まんじゅうをもっもっもっと食べている。
「今に見てるの。今はまだコックリの方がナイスバディかもしれないけど、きっと大人になったらあたしの方が出るとこ出るの」もっもっもっ
「二十世紀から活躍しててしかも人形のメリーさんの大人っていつの話?」
「育ちざかりのうちにしっかり栄養たくわえて、発育よくなるの」もっもっもっ
「おまんじゅう食べてたくわえられるのは脂肪なんじゃ……まあ脂肪でいいのか必要なのは」
「やっぱりヌクト、ボインボインの方が好きなの」もっもっもっ
「いや別に僕はどっちでもいいというか、メリーさんみたいなつつましやかな感じも好きだよ?」
「好きっ……げっほごっほげほげほ」
「のど詰まった? お茶持ってこようか?」
「へへへ平気なのこんな単語ひとつで動揺したりしてないのあたしはクールで知的で冷静なの、ぐびぐびぐび」
「待ってそれ何飲んでるの!? シャンプーだよ!?」
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」
「めっちゃ泡吹いて倒れたー!?」
洗剤の量を入れ間違えた洗濯機みたいに泡を噴射して、メリーさんはあお向けに倒れた。表情はいつもの無表情。けど気持ち青白い。まんじゅうと一緒にぷかぷか。
え、これどうしたらいい?
「ちょ、ちょっと待ってねメリーさん、こういうときこそ文明の利器の出番だ、スマホで『シャンプー 誤飲』で検索……
えっと、飲んだものを薄めるために、水や牛乳や生卵を飲ませる……
待っててねメリーさん、牛乳とか卵とか取ってくる!」
「ゴボゴボゴボ」
素っ裸のまま風呂場を飛び出して、冷蔵庫から牛乳や卵を持ってくる。
そして湯船に浮かぶメリーさんの泡まみれの口に、突っ込む。
「ほらメリーさん牛乳だよ! 飲んで!」
「ゴボゴボゴボ」
どれだけ量が必要か分からなかったから、一リットルの牛乳パックまるまる。
入りきらない牛乳が泡と一緒にもこもこ口からあふれてきて、湯船のお湯を白く濁らせていく。すでにまんじゅうで濁ってるけど。
「それから卵! 割っては投入! 割っては投入!」
「ゴボゴボゴボ」
湯船のふちで殻を割って、メリーさんの顔面に落とす。落とす。
泡まみれで口の位置がよく分からないから、数撃ちゃ当たるの精神でどんどん卵を割っていく。
で、最終的に出来上がったのが、牛乳と生卵で真っ白でろでろになったメリーさんであった。
「……ヌクト……ふざけんじゃないの……」
「ごめんあせって加減が分かんなかった」
メリーさんはでろでろのまま湯船のふちに仁王立ちして、無表情のままぷるぷるふるえている。
僕は洗い場で全裸正座中。
「あたしは人形だからシャンプー飲んだところで害なんて起きないの。平気なの。普通に洗い流せばへっちゃらなの」
「普通に青白い顔でぶっ倒れててまんじゅう食べて肉つけようとしてたメリーさんの言う人形だから平気の基準は何?」
「口答えするななの」
「目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。
「……生身の人間の僕にはシャンプー攻撃を控えようとか、そんな気配りはないのかな〜。
まあ、もう慣れちゃったけど」
ひとまず掃除、どうしようか。
メリーさんが去って、残ったのはでろでろおまんじゅうの群れと牛乳と生卵でとんでもないことになってる湯船……じゃあ、なかった。
目を向けると、湯船にはイケメンがいた。
「お邪魔しておりますヌクト様。
あかをなめがてら、こちらの食品はきれいに食しておきますのでご安心くださいませベベロベロベロ」
「「悪霊退散「なの」「しようかー」
「目にシャンプーでございますねぇ!?」
あかなめさんは悶絶して、排水口からヌルョンと去っていった。
この短時間で、湯船の残飯はきれいに平らげられていた。張っていたお湯ごと。
「で、メリーさん、帰ったんじゃないの?」
「別に、ヌクトにもう一度会いにきたとかそんな事実はこれっぽっちもないの。
ただあかなめがまたちょっかいかけに来た気配を感じたから戻ってお仕置きしただけなの。
あとちゃんとしたおまんじゅう渡しそびれたから、あげるの」
メリーさんはきちんとパッケージに入ったおまんじゅうを差し出してきた。
「ありがとう。メリーさんは優しいね」
「べべべ別に優しくなんかないのもう本当に帰るのじゃあねなの」
「結局やっぱり目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。
残ったのは、メリーさんが渡してくれたおまんじゅうのみ。
「……湯船にお湯も残ってないし、シャワーでさっと体だけ洗っておまんじゅうでも食べるかぁ〜」
あと、卵と牛乳買っとかないとな。また明日。
『あーしだけハブられたじゃんね〜!』
「コックリさん、配信で愚痴ってる」
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