第27話 都市伝説のメリーさん、ぎゅうぎゅう詰めになる。
「こんこんこんばんコックリさーん! コックリさん系配信者の
あーお風呂がきちんと掃除してツルツルじゃんねー気持ちいいじゃんねーゴボゴボゴボ」
「あたしメリーさん。今コックリの背中にゴボゴボゴボ」
「なんか勝手に二人して沈んでった」
メリーさんからの電話に出ると、背後でコックリさんがきれいな湯船にはしゃいで、お湯の中にダイブしていった。
そのコックリさんの背中にしがみついてたメリーさんは、巻き添えで沈んだ。
「逆に考えて、今までずっとちゃんと洗ってない湯船に浸かってたってことじゃんねブクブクブク」
「テンションの急降下具合が秋の日暮れ」
冷静になったコックリさんが、水面に顔を半分出してジト目でブクブク息を吐き出している。
もうちょっと上に出てあげて? 背中にしがみついてるメリーさん、顔が出てないよ?
「まあ、メリーさんが洗剤じゃばじゃば使ったから、もったいなくて念入りに洗ったんだよね。普段が使わなさすぎだったのかな」
「それ以前にヌクトゴボゴボ、風呂掃除どのくらいの頻度でしてたのゴボゴボ。あかがしっかりこびりついてたしゴボゴボスポンジもあんまり使ってない感じがしたのゴボゴボ」
「メリーさん自力でもうちょっと上がってきたら?」
メリーさんはコックリさんの体をよじよじと登って、肩に座った。
見届けつつ僕は、ゆったりと体の力を抜く。
「まあでも確かに、ちゃんときれいにすると気持ちがいいね。いつもよりリラックスできる気がするよ」
「快適さ三割増しなの」
「極楽ーって感じじゃんねー」
「そうでございましょうね。やはり清潔な風呂は何よりも体を癒すものでございます」
ぴたりと、僕ら三名の動きが止まった。
ギギギと、三名は湯船の外に顔を向ける。
洗い場に、イケメン。髪をきれいになでつけて、執事服を着た。
「ごきげんよう、ヌクト様。妖怪のあかなめ、本日また遊びに馳せ参じてございます」
「「「悪霊退散「なの」「じゃんねー」「しようかー」
「目にシャンプーでございますねぇ!?」
僕たち全員からシャンプー攻撃を食らって、イケメンことあかなめさんは洗い場に倒れ込んだ。
「ちょっとやりすぎたかな?」
「適正適量の自業自得なの。掃除したら来ないって言ったのにウソついたの」
「メリー嬢、それは誤りでございます」
長い舌でシャンプーをなめ取って、あかなめさんは優雅に起き上がった。
「わたくしめが言ったのは、あかをなめに来るのを防ぎたければ掃除することをおすすめする、でございます」
切れ長の目を細めて、にっと笑ってみせた。
「つまり普通に遊びに来たりしないとは一言も言ってないのでございます!!」
「そのよく回る舌を切り取ってやるの」
「メリーさんハサミはやめたげて!? いつものシャンプーじゃなくてガチ凶器はやめたげて!?」
「けどメリメリ、一般認識だとハサミとかの方が標準装備じゃんねー」
「確かにマンガとかのメリーさんってハサミとか刃物持ってるイメージあるけども!!
ここにいる僕の大事な友達のメリーさんはそういうパブリックイメージとは違ってもっとかわいくてへちょい感じの都市伝説だから!!」
「大事な友達……かわいっ……ぷしゅーなの」
なんかメリーさんが無表情のまま湯気吹いて停止した。ひとまずよかった。
「ではわたくしめも湯船を堪能させていただきましょう」
「ではも何もなくない? てか待って湯船せまいんだけど無理くりすぎるんだけど」
あかなめさんが強引に入浴してきた。僕の右隣にあかなめさん、左隣にコックリさん。ざぶんとお湯があふれる。
あかなめさんも服は脱がないんだね? ずぶ濡れ執事服イケメンってどこの需要? そしてその体はきれいなの? また排水口から上がってきたんじゃない?
というか全員で入るのはさすがに無理あるよ? 三人と人形一体が一緒に入れるようなお風呂じゃないんだよせまいせまいせまい。
「ゴボゴボゴボ」
あっメリーさんが沈んでる。僕とコックリさんの間にはさまれて浮き上がれずに沈んでる。
「ちょちょちょあかにゃん、詰めすぎじゃんねーぎゅうぎゅうじゃんねー。ごめんじゃんねぬっくん、くっつかないとうまく入れないじゃんねー」
スペースがなさすぎてコックリさんが密着してくる。
待って? めちゃくちゃその、胸が当たってるんだけど? やわらかい感触が押しつけられてるんだけど?
コックリさん夏服のセーラー服で目をやればその下の黒色が透けて見えてるし、いや服の下に画像設定がないから黒塗りになってるってのは前に聞いたけど、いやそれにしても感触やわらかいな?
「ゴボゴボゴボゴボ」
あっ、ヤバいヤバいメリーさんの殺気がヤバいことになってる。
待ってメリーさん違うんだこれは不可抗力で決してやましい気持ちなんてこれっぽっちも、えっとまったくないかと言えばウソになるような気がしないでもないんだけどその。
「ゴボゴボゴボボゴボボボボ」
「いや待った殺気とか以前に普通に自力で上がってこれないんだ引き上げないと!?」
あわててメリーさんを引き上げた。
メリーさんは無表情の口からぴゅるるるるーと水を吐いた。
両脇からコックリさんとあかなめさんが、申し訳なさそうに声をかけた。
「ごめんじゃんねメリメリー、上がってこれないの全然気づいてなかったじゃんねー」
「わたくしめも、はしゃぎすぎてメリー嬢の状況を把握しておりませんでした。申し訳ございません」
「あやうくおぼれ死ぬかと思ったの」
「人形におぼれ死ぬって概念あるの?」
「それはそれとしてヌクト、コックリに鼻の下を伸ばしたおしおきなの」
「違うんだメリーさん健全な男として豊かな胸を押しつけられて無反応でいることの方がおかしいし不健全であるわけで僕はいたって自然な反応を見せただけで目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんとあかなめさんも。
「……ひとまず、メリーさんをおぼれ死なせずに済んでよかったなーって思っておくかぁ」
死んでたら化けて出そうだよね。
現在進行形の都市伝説が死んで化けて出るってどういう状態?
『勘違いしないでほしいけど人工呼吸をちょっと期待したとかそんな事実は一ミリもないの確実にないの絶対絶対ありえないの』
「言わなきゃそんなこと思ってもなかったのに……わざわざメッセージお疲れ様」
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