第25話 都市伝説のメリーさん、応援される。
「あたしメリーさん。今コックリをおしおきしたのゴボゴボゴボ」
「前が見えないじゃんねーゴボゴボゴボ」
「バラエティ番組の顔面にパイをぶつけるやつみたいになってる」
メリーさんからの電話に出ると、背後にメリーさんとコックリさんが現れて、コックリさんは顔面がシャンプーの泡もりもりになっていた。
コックリさんはそのままダウンして風呂に沈んで、それに乗っかっていたメリーさんも風呂に沈んだ。
「いやーこないだの配信で調子乗ってメリメリ怒らせちゃったじゃんねー」
「シャンプー攻撃で済ませてあげてるだけ温情なの。あたしのきさらぎ駅なみの心の広さに感謝するがいいの」
「きさらぎ駅って広いの?」
僕とメリーさんとコックリさん、三人並んで湯船に浸かる。
メリーさんは僕らの真ん中で風呂イスに立って、無表情のままほっぺを気持ちぷくーとふくらませている。
「一番悪いのはあかなめなの。配信でベラベラしゃべってあおり倒してくれたの。今度会ったらおしおきなの」
「あかにゃんここに呼ぶじゃんね?」
「呼んできたらおしおきシャンプー百物語の刑なの。コックリを」
「なんであーしじゃんね!?」
メリーさんはぷくーとふくらませた無表情をコックリさんに向けている。
「そもそもあかなめにあたしたちのことを教えたのはコックリなの。コックリが元凶なの。
すべての罰はコックリが受けるべきだし被害拡大の防止はただのコックリの義務なの」
「そんな殺生じゃんね〜〜あかにゃんに教えたのはメリメリとぬっくんを思ってのことじゃんね〜〜よよよ」
「そうでございますよメリー嬢。コックリ嬢は風呂掃除の行き届いていないヌクト様の健康を心配しているのでございます」ヌルョン
「いるし!!」
「早撃ちばきゅんなの」
「目にシャンプーでございますねぇ!?」
排水口からヌルョンと出現したとたん、あかなめさんはメリーさんにシャンプーを食らって悶絶した。
メリーさんは倒れた後もしつこくシャンプーをかけている。やめたげて?
「そもそもヌクトが悪いの」
「こっちに矛先が向いた」
メリーさんはずいっと詰め寄って説教してきた。
「きちんと風呂掃除しないヌクトが悪いの。だからあかなめがあかをなめにくるしコックリがあかなめに声をかけたりするの」
「そーじゃんねー! ぬっくんがちゃんとお風呂掃除してたらあーしもわざわざあかにゃん呼ばないじゃんねー!」
「コックリ嬢、その物言いはいささかさみしいものでございますね」
シャンプーをなめ取って復活したあかなめさんが起き上がって、整った顔にちょっと影を帯びさせた。
「理解してはいるのでございます。わたくしめが気色の悪い妖怪であることは。
ですがあかをなめ取るだけ。人を害するわけでもなく、ゆえに夢見てしまうのでございます。人間と親しくなり、楽しい時間を過ごすことを。
ゆえにコックリ嬢からここを教えられたとき、胸がときめいたのでございます。都市伝説と親しくできるお方ならば、わたくしめとも仲良くしていただけるのではないかと」
「あかなめさん……」
そっか。確かに言われてみれば、あかなめという妖怪は人に危害を加えるわけじゃないし、なんならお風呂をきれいにしてくれる、どちらかといえばいい妖怪だよね。
なのに気持ち悪いってだけで敬遠されて、それがずっと続いてたなら、さみしい気持ちだってつのるよね。
あんまり邪険にせず、もっと仲良くしてあげても……
「こんなに顔の良い妖怪が親しくしていると、詐欺か何かを疑って気色が悪く感じるのでございましょうね。
わたくしめの心はこの整った顔と同等に素直で澄み切ったものでございますのに」
「あっ自分が嫌われてるのイケメンだからだと思ってる?」
「あたしこいつシンプルに嫌いなの」
メリーさんは新品のシャンプーを用意してすぐ出せるように空撃ちした。待ってもう使い切ったの? それうちにあったストックだよね?
そしてあかなめさんは髪を丁寧に整えて、優雅な笑みを浮かべた。
「本日はおいとまさせていただきましょう。長い妖怪人生でございます、
ですが今こうして人と都市伝説が仲むつまじく過ごす場がある、それはわたくしめにとって、希望なのでございます。間違いなく」
一瞬。
あかなめさんの整った笑顔は、とてもさみしそうに見えた。
本当に、一瞬で、見間違いかもしれないけれど。
そしてその笑顔をにっこりと深めて、メリーさんに向けた。
「メリー嬢。たとえ貴女に嫌われていても、わたくしめは貴女の恋路を応援しております」
「んなっ……」
メリーさんはひるんだ。
あかなめさんは整った笑顔のまま、朗々と声を響かせた。
「この風呂場にあかがある限り、わたくしめは何度でもあかをなめに参りましょう!
それを防ぎたいのであれば、ひとつのあかも残さないほど丁寧な風呂掃除を心がけることでございます!
それではこれにて、ごきげんよう!」
そしてあかなめさんは、ヌルョンと排水口に吸い込まれていった。
風呂場は急に、静かになった。
僕とメリーさんとコックリさん、三人湯船に浸かっている。
僕とコックリさんは、真ん中にいるメリーさんに目を向けた。
メリーさんは無表情を真っ赤にして、うつむいてぷるぷるとふるえていた。
「別に、恋とか、違うの……あたしそんな、応援される筋合いなんてないの、でもあの、あたしはヌクトのこと、あの」
コックリさんと僕は、メリーさんの肩に手を置いた。
「メリメリ、あーしもメリメリのこと応援してるじゃんねー」
「僕はメリーさんのペースに合わせるからね?」
メリーさんはくわっと顔を上げて、シャンプーを振り回した。
「うるさいうるさいうるさいのみんなあたしをおちょくるんじゃないのふざけるななのー!」
「「目にシャンプー「がーッ!?」「じゃんねー!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。
「……こういうシチュエーション、僕だけ気づいてないっていうのが定番な気がするけど、バレバレすぎて距離感難しいなー」
正直悪い気はしてないんだけど、どういう態度が正解なんだろうね。
『別にヌクトのこと好きでもなんでもないのでも嫌いってわけでもないのヌクトのこと大切で特別だとは思ってるのでもそれが恋とは限らないのでも恋だと絶対否定するわけじゃないのその可能性は残したままそこはかとなくそれとなくいい感じに仲良くなりたいのでも』
「長文メッセージすごっ……これ僕から距離詰めても逃げられたりするんだろうなぁ〜」
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