さん風呂め

第24話 都市伝説のメリーさん、配信でイジられる。

「あたしメリーさん、今招かれざる邪魔者をゴボゴボゴボ」


「あっメリーさん、今日は二人きりだよ」


 メリーさんからの電話に出ると、メリーさんは一緒についてくる邪魔者コックリさんをまず攻撃しようとして、来てなかったので湯船に沈んだ。

 なんで今日は来てないかというと、僕のスマホに流れる映像いわく。


『メリメリー! ぬっくんー! あーしが身をていしてあかにゃんがそっちに行くの食い止めるじゃんねー!

 あーしのことは気にせず、二人は存分に二人っきりの時間を楽しんでイチャイチャするがいいじゃんねー!』


「……だ、そうだよ」


「そもそもあかなめがここに来たのはコックリが教えたせいなの……というかイチャイチャとか何言ってるのバカなの何勘違いしてるの」


「照れ隠しで僕にキックしないで?」


 僕の素肌にローファーの足跡がつけられるー。




『ってわけでー、こんこんこんばんコックリさーん! あなたの悩みにジュジュッと回答! コックリさん系配信者の重縁指じゅうえんざしコックリじゃんねー!

 今日はゲストが来てるじゃんねー! あかにゃんこと、妖怪のあかなめじゃんねー!』


『ご紹介にあずかりました、妖怪のあかなめでございます。

 このような場に出ることには不慣れなのでいささか緊張しているのでございますが、お招きいただいたコックリ嬢の期待に応えたい所存でございます』


「なるほど、配信のゲストにすることで足止めしたんだね」


「慣れてないとか言ってるけどそんなわけないの。この顔面で緊張してるとかウソばっかりなの」


 メリーさんと二人、湯船に浸かって僕のスマホで配信を見ている。

 メリーさんはちゃっかり僕のひざの上に乗ってる。落ち着き払ってるふうをよそおってるけど、だいぶそわそわしてしょっちゅうブレザーのすそを直したりしてるよ。かわいいね。

 でも水中だから直してもあんまり意味ないよ。かわいいね。


 で、配信。


『さっそく視聴者からコメントいっぱい来てるじゃんねー。「コックリさんとはどういう関係?」あー気にされてるじゃんねー』


『妖怪と都市伝説でございますから、同じ怪異同士として縁があるのでございます。

 男女の関係を期待されているのやもしれませんが、そのような色気のある関係ではないのでございます』


 あー、男の人でしかもイケメンが急にゲストで来たら、そういう勘繰りをされることもあるんだね。

 でもあかなめさん、さらりと流してるな。こないだは非常識すぎる登場だったし変態チックなところもあったけど、執事服もあいまって平静にしてればわりと常識人……


『色気を求めるのであれば、別のご友人に期待すべきでございましょう。

 たびたび連れ立って入浴する男性がいらっしゃいますので』


『ちょ、あかにゃん!?』


「全然常識人じゃなかった!?」


「爆弾ぶっこんだの」


 うーわ、コメント欄が大荒れしてる。

 これ本気でヤバくない? 配信活動に支障が出るんじゃ?


『そうでございますよねコックリ嬢? あなたのご友人、たびたび男性と混浴していると聞き及びましたが』


『あ、ああー! そうそうそうそうそうじゃんね! あーしの友達にしょっちゅう男の子とお風呂入ってる子がいるじゃんね!』


「あ、うまいこと主語をずらした」


 コックリさんと混浴する男性の友人がいるんじゃなくて、コックリさんの友人と混浴する男性がいる、って話に持ってった。

 別にウソでもないしね。どっちの意味でもだけど。


 なんて思ってたら、ひざの上のメリーさんがぷるぷるとふるえてる。

 この体勢だと顔は見えないけど、たぶんいつもの無表情が、赤くなってるんじゃないかな。


「あたし、別に、混浴とか……そうかもしれないけど、そんなつもりじゃないの、別にそんな、エッチな意味じゃ……」


『彼女、その男性に気があるのでございますよね?』


『そーなんじゃんねー! 隠してるつもりなのかもしれないけどバレバレじゃんねー!』


 あ、やばい。

 メリーさんが発熱して、浸かってるお湯よりも熱くなってる。人形なのに体温あるの不思議だね。


「あの、ヌクト、違うの、その、別にあたし、気があるとかそんな、そういうのじゃないの」


『もーさっさとくっつけばいいっていつも思ってるじゃんねー!』


『わたくしめも機会があれば、雰囲気作りに協力いたしましょう』


「えーと、配信見るのやめようか」


 画面を消す。

 メリーさんはずっとうつむいて、ぷるぷるしていた。

 そして振り向いて、ゆでだこみたいな真っ赤な無表情で見上げてきて、言い放った。


「あたしヌクトのこと、全然好きでもなんでもないの!」


「そういうことにしといてあげてもいいけど照れ隠しで攻撃するのやめてほしいな目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。


「……まあ、本人が否定するならそれでいいかぁ〜」


 なんにも考えてないわけじゃないけど、なりゆきに任せてればそれでいいや。






「あのあの、好きでもなんでもないって言ったけど嫌いとは言ってないの、ヌクトのことは大切な友達だと思ってるの、あの、だからもし気を悪くしてたらごめんなの」


「ちゃんと気遣って謝りにくるメリーさん律儀だねー」

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