第23話 都市伝説のメリーさん、新たな来訪者と遭遇する。
「あたしメリーさん。今コックリに、あの、離してゴボゴボゴボ」
「やーんメリメリちょーかわいいじゃんねー! ブレザーめっちゃ似合っててギャンカワじゃんねー!
しかもあーしと学生服コーデでおそろいでめちゃくちゃうれしいじゃんねー!」
「コックリさん、メリーさんが沈んでるよ、やめたげて?」
メリーさんからの電話に出ると、メリーさんは僕の背後でコックリさんに抱きしめられて、コックリさんは湯船に浸かった状態なので、メリーさんは風呂に沈んだ。
コックリさんいつにもましてテンション高いね。
「ふっふっふーん。かわいいもの見ると目の保養じゃんねーメリメリかわいすぎるじゃんねー」
「別に、ブレザーがかわいいだけで、コックリみたいにあたしがかわいいわけじゃないの」
三人で並んで、湯船に浸かる。
コックリさんは新コーデのメリーさんにご満悦みたいだ。
「パンツもかわいらしいのはいてるじゃんねー」
「ちょ、コックリふざけるななの。スカートめくるんじゃないの。ヌクトに見えちゃうの」
「まあ僕が用意したパンツだから、デザイン知ってるんだけどね」
「黙るのド変態」
「目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流すと、メリーさんたちはまだいた。さすがにこんなに早くは帰らなかった。
「二人で写真撮るじゃんねー。ぬっくん撮って撮ってじゃんねー」
「はいはい」
「あたしは別に、そういうのしなくていいの……」
抵抗しつつも、メリーさんもまんざらでもないように見える。
二人でハートマーク作って、それをパシャリ。
「んっふっふー。めちゃくちゃうれしいし楽しいじゃんねー。
こないだメリメリをシャンプーしてきれいにしたから、写真写りもいいじゃんねー」
「別に、普通なの。コックリみたいにかわいくないの」
そう無表情で言うメリーさんだけど、明らかに照れてるね。もじもじしながら指で髪の毛をいじったり。かわいい。
そうしてほっこりしていると、コックリさんはぐふふと悪い顔を向けてきた。
「そ〜れ〜で〜。ぬっくんの方は、ちゃんと清潔にできてるんじゃんねー?
抜き打ち排水口チェックじゃんねー!」
「あっちょっと!? やめて!?」
コックリさんはざばんと湯船から上がって、排水口に飛びついた。
いや風呂掃除はやったよ。こないだやった。
けどたまるものは日々たまるわけで、掃除した後の日の排水口のゴミは取ってないわけで、つまりお願いだから開けないでコックリさん!?
追っかけて僕も湯船から上がるけど、ああっ止める間もなく嬉々としてフタ取っちゃった!?
排水口には、イケメンの顔面があった。
僕とメリーさんとコックリさん、全員が固まった。
……排水口。イケメンフェイスがある。排水口のワクにはまるように。あるいは下から顔を突き出してきたように。切れ長の目で、落ち着いた微笑を浮かべている。
コックリさんは無言のまま、そっとフタを戻して、イケメンを封印した。
そしたらフタが吹っ飛ばされて、イケメンがヌルョンと生えてきた。
「無視とはひどい扱いでございますね」
「うわびっくりしたじゃんね!?」
「何何何何!? えっちょっと怖い怖い怖い怖い!?」
「そのいけすかないスカした顔面、あなた妖怪の「あかなめ』なの」
「ご紹介にあずかりまして感謝でございます、メリー嬢」
そのイケメン――妖怪あかなめは、優雅にお辞儀をした。
黒い執事服。なでつけた黒髪。切れ長の目の下で微笑するくちびるからは、にょろりと長い舌が現れた。
妖怪あかなめはそして、優雅な所作で体を起こして朗々と語った。
「突然の訪問となりましたことをまずは謝罪いたします、家主のヌクト様。
しかしコックリ嬢から貴殿のお話を聞き、わたくしめはもう、いてもたってもいられなくなりまして」
目を細め、ほおに両手を当て、舌なめずりをして、妖艶にほほ笑んだ。
「極上のあかをなめるまたとない機会……至福の時間でございました……!」
「変態なの。妖怪は去れなの」
「目にシャンプーでございますねぇ!?」
メリーさんにシャンプー攻撃を食らって、あかなめはヌルョンと排水口に引っ込んでいって、いなくなった。
コックリさんはほーっと胸をなで下ろした。
「びっくりしたじゃんねー。まさかあかにゃん、こないだちょっと話しただけでこんな急に押しかけてくると思わないじゃんねー」
「コックリさん、人の家のことあんまり勝手に話さないでね?」
「……そんなことより」
ゆらりと。
メリーさんが、湯船の中からフチへと登って、こちらにどす黒い無表情を向けてきた。
「二人はなんで抱き合ってるの。どういうことなの」
現在の状況。
あかなめの出現にガチビビりした僕は、思わずコックリさんに抱きついてしまった。
その体勢のまま、今に至る。
「違うんだメリーさん、たまたま手近にいたのがコックリさんだったってだけで、深い意味はこれっぽっちもないんだ」
「なんにもメリメリが嫉妬することないじゃんねー、むしろほら、あーしこれ盾にされてる構図ってゆーか、だからわりと雑に扱われててぬっくんひどいじゃんねーみたいな?」
「問答無用なの」
「「目にシャンプー「がーッ!?」「じゃんねー!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。
排水口のフタが、あかなめ出現の痕跡を物語るように、あさっての方向に落っこちていた。
「排水口、ゴミがなくなってる……なめ取られたのかな……」
なんか、ものすごく、倫理的というかなんというか、よろしくない気がする。
そしてこれからのお風呂タイムは、さらににぎやかになっていく。
僕たちのドタバタは、まだまだ続く。
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