第22話 都市伝説のメリーさん、学生服を着る。
「あたしメリーさん。今コックリのゴボゴボゴボ」
「ごめん今日はコックリさん呼んでないんだ」
メリーさんからの電話に出ると、メリーさんはコックリさんにちょっかいかけようとして、でもコックリさんはいなかったので、空振りしてそのまま湯船に沈んだ。
「今日はなんでコックリ呼んでないの」
「メリーさんと二人きりの方がいいかなって思ってさ」
「ふふふ二人きりがいいとかそんなこと言われてあたしはなんの動揺もしてないの気にしないの平常心なののののゴボゴボゴボ」
分かりやすく動揺したメリーさんは風呂イスから足を滑らせて、湯船に沈んだ。かわいい。
イスに上り直したメリーさんは、無表情のままいそいそと服のすそを直したりしてる。かわいい。
でも水中だから、直したそばからヒラヒラ広がってあんまり意味ないよ。かわいい。
メリーさんは無表情のまま、微妙に顔をこちらに向けずに尋ねてくる。
「それで……急に二人きりになったりして、何を考えてるの?
別にヌクトが何を考えてようとあたしの知ったことじゃないの、でもしかるべきお話ならあたしも真剣に考えないこともないの、でもそれならもっと心の準備がほしいの、でも別に何にも意識したりしてないの」
「今日はね、渡したいものがあるんだ」
「まままままさか給料三か月分!? ダメなのそういうのはもっと段階を踏んでからなの、あっでもイヤって言ってるわけじゃないのただもっとしかるべき関係性を経てからすべきなのなのなのなの」
「ほらこれ、新しい服だよ」
「……ふく」
ビニール袋に入れていたものを取り出して、メリーさんに差し出した。
それはメリーさんの大きさに合わせた、人形用の服。それもデザインは。
「こないださ、学生服着てみたいって話をしてたからさ。
コックリさんがセーラー服だし、メリーさんはブレザーにしてみたよ」
紺色のブレザーに、チェック柄のプリーツスカート。
ハイソックスにローファーもつけて、学生服らしさ満載のフルセット。
メリーさんは、服を受け取って、じーっとながめた。
顔はいつもの無表情で、ひたすらじーっとながめて、ぶつぶつとつぶやいた。
「別に……こういうの、ほしいとか思ってないの。でも別に、感謝しないわけじゃないの。ただ今の前フリでこれが出てきて、テンションの持ちようというか、リアクションに困るというか、その」
「……指輪の方がよかった?」
「ばばばバカじゃないの指輪がほしいとかこれっぽっちも思ってないのまだなんにも進展してないのにこん、こん……こんにゃくとかそんなこと思うわけないのありえないの」
「照れ隠しシャンプーはやめてほしいなー目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流して、確認したらメリーさんはまだいた。
そして着替えていた。なんという早着替え。
「……どう、なの」
メリーさんは無表情のまま、うつむき加減で、ちょっともじもじしながら、スカートを軽くつまみ上げたりしてポーズを取った。
うん、かわいい。ブレザーがよく似合ってる。湯船に浸かってるから全部びしょ濡れだけど。
「すっごくかわいいよメリーさん」
「別に、それは、ヌクトが選んでくれた服がかわいいだけなの」
「いやメリーさんがかわいいよ」
「うるさいのバカなのスケコマシなの」
メリーさんは無表情を真っ赤にして、げしげしとキックしてきた。かわいい。
「……ところで、これ、どういう了見なの」
不意にメリーさんは、スカートを両手で握りしめて、うつむいて、ぷるぷるとふるえた。
「これ、って、どれだろ? スカートのこと? 何かデザインが気に入らなかった?」
メリーさんは顔を上げて、真っ赤な無表情で怒鳴った。
「パ・ン・ツ! なの! なんで制服一式だけじゃなくてパンツまで用意してるのバカなの変態なのサルヤローなの」
「ああー、だって前に服をあげたときはパンツなかったし、ひょっとして古いやつずっとはいてるか最悪ノーパンでいるんじゃないかと思ってさ」
「ふざけるななのなんでヌクトにあたしのパンツ事情心配されなくちゃいけないのハレンチなの変態なの妄想ヤローなの」
「そこまで言われなきゃならないかなー? でもはいてくれたんでしょ?」
「やかましいのサルヤロー」
「目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。
ご丁寧に脱いだ服も持って帰ったみたい。置いてってくれたら洗濯したのに。
「……ん、メッセージが」
スマホを見ると、メリーさんからコメントと写真が送られてきていた。
『細かいことはともかくとして、お礼は言っとくの。ありがとうなの』
写真は、ブレザーでポーズを決めるメリーさんの自撮り。
今どきの学生っぽく、指でハートマークを作ったりなんかしてる。超かわいい。
「ふふっ」
こんなの見せられたら、ニコニコになっちゃうね。
買ってよかったし、気に入ってくれたみたいで本当によかった。
「あのあの、ハートマーク作ったのはただのノリで、別に深い意味はないのホントなの全然深読みしなくていいのなんでもないの」
「分かったから、わざわざ戻ってきて弁明しなくても」
——————
・作者より
こえけんコンテスト中間選考突破しました! 皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
本作品はカクヨムコンにはエントリーしていませんが、私個人は他の作品でエントリー中です。
せっかくのお祭りですし、私の作品に限らず、コンテスト応募作品もたくさん応援してあげてくださいね。
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